Outside

Something is better than nothing.

『フィンチ』(2021年)

 ミゲル・サポチニクの『フィンチ』を観る。AppleTV+映画。

 トム・ハンクス演じるフィンチは、砂漠化した街でひとりで暮らしているが、ロボットを効果的に活用している。オゾン層が破壊され、日光の下で人間は皮膚が焼けてしまうため、特殊なスーツを着た上で荒廃した街中をロボットとともに歩き回り、残った食べ物を探している。彼の唯一のパートナーは犬のグッドイヤーで、彼とともに生活を営んでいた。フィンチは長らく紫外線の下で暮らしていたためなのか、病に冒され、自身の死後もグッドイヤーの面倒を看るロボットを作成する。そんな折、彼の暮らしていた街に約40日間も継続する砂嵐がやってくることが分かり、作り立てのロボットも連れ、グッドイヤーやデューイというロボットとともにカリフォルニアを目指すことになる。少しずつ外界を認識し、まるで子供のようにはしゃぐロボットで、やがて自らジェフという名前をつけることになるそのロボットは、そのあまりに不用意な行動によってデューイを失ってしまい、また人間の追跡を許してしまう。何とか逃げおおせることはできたが、フィンチの病状は苦しくなってきており、カリフォルニアまで少しのところで休憩する。なんとそこは防護服なしでも人間が暮らすことができる環境になっていた。あれだけ砂漠化していた世界に、植物や蝶が飛び、フィンチたちはそこでパラソルを広げて最後の時を過ごす。そう、フィンチは自らの命が尽きようとしていることに気づいていた。ジェフとグッドイヤーはそれを静かに看取り、新たに旅立つ。彼らの目指したゴールデン・ゲート・ブリッジには、たくさんの人々の思いが詰まっており、彼らもそこにフィンチの思い出を託して旅を続けていく。

 ポスト・アポカリプス的な世界観の下で、フィンチという元技術者がそのスキルを活かしてロボットを作り出し生計を維持していくところは非常に魅力的な素材であった。その終末期において、彼は一世一代の賭けに出ることになる。それがジェフとして生み出されたロボット、ということになるのだが、このキャラクターは明確に子供として描かれ、その知識習得から失敗に至るまでの一連の流れ、仲間の喪失、拒絶、そしてメンバーシップの獲得といった流れに淀みはない。淀みがない上にきわめて丁寧にそれを描き出しているところは、さすがトム・ハンクス出演作だろうといった案配で、特筆した瑕疵はない作品なのだった。

 グッドイヤーとして動き回る犬の存在は、物言わぬ相棒として雄弁さを持ち、フィンチの心情を代弁することになり、ジェフのぎこちなさを表すことにもなる。彼の存在なくしてこの映画は成立しえない(物語としても画面としても)ので、まず第一の役者はこのグッドイヤーを演じた犬だろう。さりげなく語られるフィンチとグッドイヤーのなれ初め(スーパーに忍び込んで食料を確保していたフィンチは、同じく食料を確保しに来た母娘から身を隠し、強盗に襲われているところさえ目を背け、二人は殺されるが娘のリュックサックには子犬のグッドイヤーが震えている)は、フィンチの臆病さと後悔を語るにふさわしい題材であろうし、お腹を無邪気に撫でられるグッドイヤーの可愛さにも物悲しさが感じられる。

 悪くない作品であることは確かなのだが、あまりに丁寧にやりすぎた結果として冗長に感じられる部分があるように感じられた。