Outside

Something is better than nothing.

『ハミングバード』(2013年)

ハミングバード(字幕版)

ハミングバード(字幕版)

 

 スティーヴン・ナイトの『ハミングバード』を観る。

 ジェイソン・ステイサム演じるジョゼフ・スミス(ジョーイ・ジョーンズとも名乗る)はアフガニスタンの戦場で仲間たちを殺されたことに激昂し、報復として民間人を同じ数だけ殺害したことで軍法会議にかけられるが、軍から逃亡し、ロンドンでホームレス生活をして姿を隠していた。ホームレスの少女と互いに身を寄せて暮らしていたが、ギャングの取り立てによって少女が捕まってしまい、またジョーイも身を持ち崩していたためにボコボコに殴られてしまう。ジョーイはそのまま高級アパートメントに逃げ込むが、そこは八ヶ月ほど家主がニューヨークに行っていたため、そこで身を潜めて暮らし始める。ケガをしたジョーイは、アガタ・ブゼク演じるシスターのクリスティナから抗生物質を貰う。彼女はシスターとして周辺のホームレスに食事を施し、天使と呼ばれていた。彼は中国料理店で食器洗いをする傍ら、厄介な客をあしらうガードマンのような仕事をしているところを中国系マフィアに見出され、裏社会の仕事を始める。貯め込んだ金をクリスティナの援助に当てたり、彼の妻子に当てたりするが、あの少女はなかなか見つからない。少女はマフィアに薬漬けにされて、売春婦にさせられていたが、やがて暴力的な客によって殺されてしまった。クリスティナの禁欲的な態度と叱責に苛立つジョーイだったが、次第に彼女の説得にほだされていき、正義の心を取り戻していく。少女の情報を集める傍ら、ジョーイはクリスティナの過去を本人の口から聞く。彼女は体操の先生に何度もレイプされ、復讐のために先生を殺害したことでシスターになったのだった。そして彼女は、ロンドンは誘惑が多いということでアフリカ行きを決意する。すべてが終わる十月一日、ジョーイは少女の復讐のため、金融マンをパーティー会場から落とし、クリスティナは過去との決別を込めて、彼女の人生の支えでもあるバレエを観に行く。そしてすべてが終わり、二人はひっそりと身を寄せて、それぞれ旅立っていく。ジョゼフ・スミスは捕まったかもしれないし、そうでないかもしれない。

 かなり危うい均衡の中で脚本があるので、正直なところ、二回観るとつまらない印象を抱くのではなかろうかと思ったのだが、微妙な説得力をジェイソン・ステイサムとアガタ・ブゼクは画面に持たせることに成功している。

 途中、ハミングバード(ハチドリ)が画面に現れるところは気持ち悪くて、なかなか説得力がある画面だったし、かなり危うい人生を禁欲という形で渡っているシスターは、その体の細さや鮮やかな赤いドレスを着ることで女性としての姿を獲得する様によって、その壮絶な過去を予感させて止まない。ジェイソン・ステイサムの一見するとマッチョな身体性は、最初のボロボロの(髪さえ長い)姿で一気に崩れていき、落ちぶれた男を見事に演じている。

 脚本自体はどうしようもないものであるのだが、危ういところを俳優たちの見事な演技でカバーしているので観られるものに仕上がっている。例えば、この均衡を『セレニティー:平穏の海』(2019年)では(当然?)崩壊させてしまっているので、脚本の力というものについて改めて考えさせる映画にはなった。つまり、雰囲気と俳優だけで押し切ろうとしても、観客は騙されないぞ、と。