Outside

Something is better than nothing.

『ボス・ベイビー』(2017年)

 トム・マクグラスの『ボス・ベイビー』を観る。

 マイルズ・バクシ演じるティモシー・レズリー・テンプルトン(ティム)は空想豊かな7歳の子どもで、両親の愛情を一身に受けていることに満足しきっていた。他方、アレック・ボールドウィン演じるボス・ベイビーは遥か彼方で赤ちゃんの選定の中でお腹をこちょこちょとくすぐられても笑わなかったことがきっかけだったのか、ベイビー株式会社で働くことになり、ある日、テンプルトン家にタクシーでやってくる。ジミー・キンメル演じる父テッドとリサ・クドロー演じる母ジャニスは、それからボス・ベイビーの世話でかかりきりになり、ティムへの関心が薄れてしまう。それに反抗してか、ティムはベイビーを嫌うようになり両親は頭を悩まされる。ティムはある日、ボス・ベイビーが話していることを目撃する。そうして、ボス・ベイビーは元々はベイビー株式会社にいたこと、特殊なミルクを飲むことで、成長を止め、天上世界で永遠に赤ちゃんのままでいられること、あるミッションを達成するためにテンプルトン家にやってきたことが告げられる。テンプルトン家はペット・チェーンのワンワン株式会社で働いており、スティーブ・ブシェミ演じるフランシス・フランシスという社長が、世界中の人々の愛情のパイを奪うためにフォーエバー・ワンコを作ろうとしており、それを防ぐためにボス・ベイビーが派遣されたことが判明する。彼らはやむなく協力関係を築き、ティムはベイビーをテンプルトン家から追い出し、両親の愛情を独占するため、ボス・ベイビーは尊敬するビッグ・ボス・ベイビーのような功績を挙げ、天上世界において角部屋で黄金のおまるつきの部屋を貰うために協力していくことになる。ジンボや三つ子、ステイシーといったボス・ベイビーの仲間もミッション達成に向けて動くことになる。二人は、職場見学の日に秘密を見つけるものの、コンラッド・ヴァーノン演じるフランシスの弟ユージンに見つかってしまい、そこでフランシス・フランシスがかつて天上世界においてビッグ・ボス・ベイビーだったことやベイビー株式会社への復讐のために動いていること、そしてボス・ベイビーの持つ特殊なミルクが必要だったことが分かる。ミルクを奪われたボス・ベイビーは、これを定期的に飲まないと赤ちゃん返りしてしまい、成長してしまう。フランシスを追いかけようにも両親がラスベガスに連れられてしまい、ユージンがその間の家政婦になってしまう。両親を追いかけるために脱走するものの、空港で二人は仲違いしてしまうが、無事に飛行機に乗り込み、ラスベガスの発表会場にたどり着く。ロケット発射により全世界にフォーエバー・ワンコをばら撒こうとしたフランシスの野望を打ち破り、両親を救い出すことに成功する。ボス・ベイビーは無事に昇進し、テンプルトン家を去ることになったが、ベイビーの元にメモが届く。そこにはティムから弟としてやってこないかという誘いだった。彼はティムの弟として転職する。かくしてこんな来歴を語り終えた大人のティムは、自分の娘に妹を待つ楽しみを告げるのだった。

 かなりよくできた話であることは確かで、基本的には子を持つこと、そして兄弟を持つことの戸惑いがベイビー株式会社という空想を通じて、実に見事に描かれている。状況があまりに子供を持ったときのてんやわんやそのままであるから、ほとんど空想の余地がないように思えるところにティムという視点を作り出すことによって、子どもらしさを被せることができている。そして、両親の愛情の飢えから、兄弟への憎悪、そして愛情の全体のパイの奪い合いと、パイそのものを増やすという発想というところに段階を経て丁寧に、そして面白おかしく描くことで、自然に新たな家族を迎え入れることの心構えを描くことができている。

 ボス・ベイビーというキャラクターは、この逆転した状況を描くに相応しいキャラクターと言えるだろう。そして死んだように眠る両親の姿は、いかにも育児に疲れ切って、ボスに振り回されている状況と思え、両親はほとんどかかりきりで育児しているバランスは素晴らしいように思うのだが、一点だけ気にかかったのはユージンのキャラクターだろう。

 なぜ彼は「家政婦」の扮装をしなければならなかったのか、というところ。ここだけがこの全体を通してうまく描かれている映画の中で、唯一気にかかった。ある意味で保守的な話であるために、乳母のような役割を女性の表象として描くことに無邪気だった、という風に考えられるのかもしれないし、当然にベイビーや親の立場からすると、男性よりも女性の方が安心できる、といった要素があったのかもしれない。