Outside

Something is better than nothing.

『三つ数えろ』(1946年)

 ハワード・ホークスの『三つ数えろ』を観る。

 ハンフリー・ボガート演じるフィリップ・マーロウはスターンウッド将軍の邸宅を訪れる。そこにはローレン・バコール演じるヴィヴィアンとマーサ・ヴィッカーズ演じるカルメンがおり、将軍は妹の方についた虫を追い払って欲しいという依頼をする。カルメンには賭博の借金があり、その証書は真正に彼女の筆跡である。何か彼女を巡って、よからぬ状態になっているらしいことが分かる。早速動き出そうとするマーロウだったが、姉のヴィヴィアンに見つかって探りを入れられる。彼女は以前に館の用心棒であったリーガンの行方を探っているものだと思い、マーロウに接近する。リーガンとマーロウは旧知の仲だった。リーガンは賭博の胴元ジョン・リッジリー演じるマースの妻と駆け落ちしていた。また、館では運転手も消えていた。調査を始めるマーロウは、古書店を営むガイガーの元に向かい、ドロシー・マローン演じる本屋の店員にどんな風采かを尋ね、ガイガーの店に入るがそこで受付をしているアグネスに無下にあしらわれてしまう。雨の中、向かいの書店で待っていると車がやってくる。車を追いかけると、ある邸宅に向かい、しばらくそこで待っていると銃声が聞こえてくる。中に入り込むと、ガイガーが射殺されていた。そして意識が混濁した状態で倒れているカルメンの姿もある。邸宅の中を調べると、隠しカメラが設置されており、フィルムは抜き取られている。マーロウはカルメンをスターンウッド邸に運び込み、何もなかったことにするようにヴィヴィアンに言い含める。自分の車を取りに戻ると、邸宅から死体が消えていた。レジス・トゥーミー演じるバーニー刑事からスターンウッド家の運転手が殺害されたと告げられ、その状況検分に立ち会う。翌日、ヴィヴィアンからカルメンの写真をネタに脅迫されていることを知らされる。ガイガーの店に向かうと、アグネスの情夫ブローディに辿り着き、彼が脅迫していることを知る。その前に惨劇があった邸宅に行き、マーロウは家主を名乗るマースと対面し、何か情報を引き出そうとするものの、尻尾を掴ませない。ブローティのアパートに乗り込むと、ヴィヴィアンやカルメン、アグネスが入り乱れて争っている最中に、別の男がブローディを射殺してしまう。ヴィヴィアンから小切手を受け取るものの、マーロウは納得できない。マースが怪しいと睨んでいるが、それを裏づけるように地方検事から事件から手を引くように圧力がかかる。しかし、マーロウはそのまま調査を続行し、マースとカジノで会う約束を取りつける。マース邸に向かったマーロウだったが、そこでヴィヴィアンに会う。それがきっかけでマーロウは、ヴィヴィアンとマースが裏で繋がっていることを確信するが、ヴィヴィアンは口を割らない。ご丁寧にもマースはヴィヴィアンに強盗を差し向けてまで無関係を装うとしていた。ヴィヴィアンを家に送っていく中で、彼女はマーロウを愛していると言い、二人は抱き合う。彼女を送り届けた後、マーロウはマースの差し向けた子分たちに袋叩きにあう。その様子を離れて窺っていたエリシャ・クック・Jr演じるハリーが、マーロウに対してアグネスの命令として200ドルで情報を買わないかと持ちかけた。それに乗ったマーロウは、時間通りに事務所を訪れるが、マースからの刺客カニーノがハリーを脅迫していた。アグネスの居所を尋ねるカニーノに対して、ハリーは嘘の住所を言って守るが、毒は入っていないと言われて飲んだ水を飲まされて殺されてしまう。アグネスと会ったマーロウは、マースの妻の居場所を聞き出し、その場所に向かう。自動車修理工場だということで、直前で車をパンクさせ、中にいた男に修理を依頼するふりをして近づこうとするが、そこにはカニーノの姿もあった。偽装がばれてマーロウはカニーノに捕まってしまい、ロープで拘束されてしまう。カニーノがマースに連絡を取りに行っている間に意識を取り戻したマーロウは、マースの妻がいることを確認する。マースの妻がリーガンと駆け落ちしたのはマースによる偽装工作だった。さらにはヴィヴィアンとも再会する。ヴィヴィアンはマースの手のひらで踊っていたが、ようやくマーロウのことを信じ、彼のロープを切り、カニーノを撃退するためにマーロウが家を出て20数えてから悲鳴を上げる。そして銃撃になった彼らは、ヴィヴィアンの機転によって誤った方向にマーロウがいるという声に反応したカニーノに対し、銃撃してその場を切り抜けるのだった。マーロウはマースに連絡を取り、彼に対して先手を取るために自動車工場にいるが、話し合いたいとあの邸宅にいるにもかかわらず嘘をついて呼び出す。マースは先についたと思いこみ、部下に先に出てきた男を撃ち殺すように指示を出していた。マーロウとヴィヴィアンは部屋の中に隠れ、マースがやってきた後に姿を現し、真実が明らかになる。リーガンはカルメンによって殺され、カルメンは覚えておらず、リーガンの死体処理に際してマースはヴィヴィアンを脅迫し、それにあやかろうとガイガーやブローティもスターンウッド家の資産に手を出そうとしていた。マーロウは助かりたければ三つ数えるうちに外に出ろと脅し、マースは部下に自分だと告げながら家を出るものの、部下たちに撃たれる。バーニー刑事を電話で呼び出したマーロウは、ヴィヴィアンにカルメンを病院に入れるように忠告する。

 非常に好みだった。何が好みかというと、事件を巡る時間の経過というか、そういった撮り方や関係性のもたらす時間的な感覚といったものが好みであって、それが前提にあるため、この映画の筋がどうこうというよりも観ていて居心地がよい。

 フィリップ・マーロウはこの複雑な事件を前に、耳を触りながら、そして安直に拳銃を振りかざす暴力の安易さに一切の戸惑いを見せていないが、これはハンフリー・ボガートの演技によるものなのだろうと思う。ヴィヴィアンを演じるローレン・バコールは状況の奇怪な収奪構造に対して、為す術がないものの一切の混乱を見せない。マーサ・ヴィッカーズ演じるカルメンがひたすらに痴態を見せ続けることとは対照的に。

 この奇妙で複雑でエロティックでもある事件に対して、ハワード・ホークスは淡々と事実を提示していき、解きほぐしていくという戦略を採ったため、複雑なプロットの割には観ていてあまり混乱はないように思うし、一定の時間的なリズムを最後まで維持することができている。

 どんどん怪しげな男たちが現れてきては、女性たちから金を巻き上げようとしているところ(カルメンに至っては性的に搾取されてもいる)が実に醜悪であって、この明快な構造を前に、確かにヴィヴィアンは袋小路のようなシニカルさ、あるいはスターンウッド将軍はある種の諦観を示さざるを得ないのだ、といった裏付けがしっかりなされているところに感心した。