Outside

Something is better than nothing.

『教授と美女』(1941年)

 ハワード・ホークスの『教授と美女』を観る。

 8人の教授たちが、ダニエル・トッテン財団の援助の下、百科事典の編纂を行っており、目下Sまでは編纂が進んでいるが、そこまでに約9年が経過し、残り3年はかかるといったところで、ゲイリー・クーパー演じる言語学者ポッツ教授は、ゴミ収集人の使う俗語が自身の編纂する辞典にないことに気づき、時代に取り残されているのではないかと街に繰り出す。さまざまな人たちの使うスラングを収集していくポッツ教授だったが、ナイトクラブでバーバラ・スタンウィック演じるオシェイに出会うことで運命が大きく狂う。彼女はダナ・アンドリュース演じるギャングのジョー・ライラックの情婦だった。そして彼は殺人の容疑で追われており、不利な証言が法的にできなくなる妻としてオシェイを迎え入れることを画策する。オシェイもまた検察から逃れるために、ポッツ教授の手伝いのためにトッテン財団の館に居候し、白雪姫の七人のこびとよろしく、オスカー・ホモルカ演じるガーカコフ教授、ヘンリー・トラヴァース演じるジェローム教授、S・Z・サカール演じるマーゲンブルック教授、タリー・マーシャル演じるロビンソン教授、レオニード・キンスキー演じるクィンタナ教授、リチャード・ヘイデン演じるオドリー教授、オーブリー・メイザー演じるピーグラム教授がオシェイに付き従う。彼らは9年もの間、浮世離れして生活しており、女性はキャスリーン・ハワード演じるミス・ブラッグという家政婦と、メアリー・フィールド演じるトッテンの娘ミス・トッテンのみだった。ポッツ教授の調査に協力するオシェイだったが、その魅力によってポッツは彼女を異性として意識してしまう。彼女もまたヤムヤムを教えるといって、キスを交わしたところでポッツは完全に彼女に恋し、指輪を購入し、結婚を申し込むことにする。しかし、そこへニュージャージーにいるライラックから連絡がある。結婚式を行うため、ニュージャージーに来るように言う。父親と偽ってライラックは、ポッツにオシェイをニュージャージまで運ぶように命じ、彼らは結婚式だと騒ぎながら車で向かうことにする。唯一、新聞に載ったオシェイを見てギャングの情婦だと気づいたミス・ブラッグはオシェイによって部屋に閉じ込められてしまう。道中、数十年ぶりに運転したガーカコフ教授が事故を起こしてしまい、モーテルに宿泊することになる。そこでポッツは部屋番号を間違えて、オドリー教授だと勘違いしてオシェイに対し、誠心誠意の愛の告白をする。すると、オシェイは自身の本当の気持ちに気づき、ポッツを愛していることに気づく。だが、すでに電話でライラックたちはポッツ一行の泊まるモーテルにやってきていた。ライラックはポッツに対し、利用されていたことを告げ、彼らの旅路は終わる。すっかり意気消沈した一行だったが、オシェイもまた心変わりしており、ライラックとの結婚を承諾しない。証言の確実さのためだけにライラックオシェイとの結婚を強行しようとし、ポッツたちの元に部下を遣わせ、人質として利用する。しかし、教授たちの機転によって一瞬の隙を突き、彼らはギャングを撃退し、ニュージャージーまで辿り着いた彼らはオシェイを救い出す。ボクシングの教本を読んで戦いを学んだポッツは、見よう見まねの戦法でライラックと殴り合い、勝つのだった。そして、二人はヤムヤムを交わすのだった。

 スクリューボール・コメディの傑作だと思われる。脚本にビリー・ワイルダーが参加したことが奏功したためなのかは分からないのだが、七人のこびと然とした教授たちの、浮世離れした所作のすべてが可愛らしい。

 彼らの生活それだけでもかなり面白く、集団で朝の散歩をしているし、戦いの場面においては各自の知識を持ち寄って勝利に至る。ポッツに至っては、ボクシングの教本を読む始末で、そこで本物のギャングと戦うところは見所だろう。

 バーバラ・スタンウィックがポッツたちの館にやってきて、脚を触らせるシーンのエロティックさはちょっと今観てもドキッとするような艶めかしさを持っており、そして彼女は見せる喉奥は明らかに性器のメタファーだろう(「脚」もまた性的なメタファーであるし、という見方をすべてに適用するのはどうかとも思うのだが、このシーンは明確にそのように撮られているので、そのように解釈する)。何というか非常にいやらしいものを観た。かくして、少なくとも9年もの間、異性を意識したことのなかったポッツはオシェイの虜になってしまう。

 この擬似的なセックスを踏まえると、もはや彼女の独擅場といっても過言ではなく、混乱の魔女オシェイは館の秩序を一気に塗り替えてしまう。だからこの館を切り盛りしてきた家政婦ミス・ブラッグが最も彼女に反発するのだ。

 ゲイリー・クーパーのうぶさは、この七人のこびとを前にするといささか決まりすぎている嫌いがあるものの、しかし最後までこのうぶさを覆さなかったところに好感が持てる。

 傑作だった。そして、この映画は何よりバーバラ・スタンウィックの勝利とも言えよう。