Outside

Something is better than nothing.

『グレイハウンド』(2020年)

 アーロン・シュナイダーの『グレイハウンド』を観る。Apple TV+の映画。

 トム・ハンクス演じるアーネスト・クラウスは艦長としての初めての任務で、第二次世界大戦下における大西洋の戦いの最中、護送船団を率いてリバプールに向かう。クラウスは、エリザベス・シュー演じるイヴリンとの逢瀬を思い返しながら、キーリング艦に乗り込む。平穏無事に航海が終わることはなく、「ブラック・ピット」と呼ばれる航空支援の対象から外れた海域において、ドイツのUボートによる襲撃を執拗に受ける。彼らはグレイハウンドという戦艦の名前に対抗して、グレイウルフを名乗る。初めは爆雷によって撃破することができたグレイハウンドだったが、二度目はデコイによって大量に爆雷を消費してしまう。激戦の中で、給仕兵としてクラウスの食事を給仕していたロブ・モーガン演じるジョージ・クリーヴランドら三名を失い、また護衛する商船にも被害を出しながらも、航空支援を受けられる海域まで進んでいく。しかし、Uボートがまたしてもやってきて、クラウスは疲労の極地にありながら冷静に指揮を取っていく。かくして、Uボートに勝利を収め、無事に支援海域まで進むことができたのであった。
 無駄な描写は極限まで削られ、「事実」(ノンフィクションという意味ではなく、叙事に近い意味において)のみを撮っていく方法を選択しているように見える。これはかなり意識的な戦略であり、個人的にはかなり成功しているのではないか、と思う。それがこの上映時間90分ほど、と考えると、私はこの短さを素直に肯定したい。
 冒頭における、今後の厳しい戦局が訪れることの対照として、イヴリンとの逢瀬はどこかこのビターな映画に対してストレートに甘く、しかし同時にどうやら彼女との間には何か障害があり、率直な好意は実を結ばないというところに、安易な言い方かもしれないが、人生のビターな感じを受ける。彼がイギリスで補修を受け帰ってきたとしても、そこに待ち受ける者は(象徴的な意味では)いない。だが、彼は神によるものなのか、それに基づく倫理観なのかは分からないが、職務を果たさなければならない。この抑制された人物の、造形がよく分かる。彼が務めを終えてまず行った祈りは、何度も出されてついに取ることができなかった食事の、合間合間にアーメンと祈る様の集大成のようにも思える。
 大海に投げ出され、敵によって何度も「中断」が挟まれる中で、しかし彼は祈り続けることだけは最後までやり通した。