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『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017年)

マンチェスター・バイ・ザ・シー (字幕版)

マンチェスター・バイ・ザ・シー (字幕版)

  • 発売日: 2017/08/18
  • メディア: Prime Video
 

 ケネス・ロナーガンの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観る。

 ケイシー・アフレック演じるリー・チャンドラーはボストンで便利屋としてマンションの管理を請け負っているが、短気で血の気が多い。ある日、兄のカイル・チャンドラー演じるジョーが亡くなったという知らせを受け、故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻り、ルーカス・ヘッジズ演じるジョーの息子パトリックの後見人として彼に向き合うことになる。パトリックはまだ16歳で、ジョーの遺した船や家のこと、そして何よりジョーの死自体を受け入れることができない。だが、リー自身も過去にミシェル・ウィリアムズ演じるランディとの間にあったある出来事を乗り越えられずにいる。またパトリックの母であるグレッチェン・モル演じるエリーズはアルコール問題から母親として振る舞うことができず、またそのことがきっかけで行方知らずになっている。パトリックは父の死と新しい環境、それに16歳ならではのガールフレンドとの逢瀬や交友関係がまずあり、またリーは兄の死を発端に起こった葬儀や遺産の処理の問題がある。そしてリーは避けていた故郷に戻ることで、心理的に避けていた過去の自分の子供の死と向き合わざるを得なくなる。リーはその問題を乗り越えることができないことを悟り、ジョーの友人でもあるジョージに後事を託し、ボストンに戻ることにするのだった。

 撮影は美しく音楽もささやかで、その中でゆっくりと解き明かされていくリーの過去が、ケイシー・アフレックの何とも言えない何かを抱え込んでいる表情とともに私たちの前に現れていくことで、あの火事の、後に残った大きな傷跡の痕跡をたどたどしくも辿ることができている。そういった意味で脚本は慎ましく、しかしそれでいて大胆であろう。

 彼らの各々に抱えた傷と、それでも生きていかねばならないということ、けれどもどうしたって残してしまう禍根とまでは言わないものの、関係性におけるしこりのようなもの、そういった人生のざらつきが普段の生活の中では見えないにしてもところどころ顔を出すことで、問題の複雑さを印象付けることができている。

 リーの壁は、おそらく今後も乗り越えることができないかもしれない、そう言った類の壁であり、後半において元妻のランディとたまたま会って、涙ながらに会話するあのシーンの、ああいった瞬間こそがおそらくリーの最も恐れていたことではないか、と思うのだった。そしてリーはランディに救われると同時に余計に抜け出せなくなってしまっている。その泥沼の深さ、そして窺い知ることのできないほどの大きな喪失。そういったものを前にして、私たちは最後にジョーの船に乗って、冒頭の輝かしい過去のワンシーンを彷彿とさせるように釣りをするリーとパトリックの姿にほんの少しだけ心が洗われるような気がして、映画が終わるのであった。