Outside

Something is better than nothing.

『デトロイト』(2017年)

デトロイト(字幕版)

デトロイト(字幕版)

  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: Prime Video
 

 キャスリン・ビグローの『デトロイト』を観る。

 1967年、アメリカのデトロイトで、退役軍人の復員記念のパーティーを行っていたところ、デトロイト市警が違法酒場として摘発を行った。デトロイトはアフリカ系の住民が多かったが、抑圧的な警察官が多く、また郊外に住む彼らは貧富の差にも直面していた。逮捕した際に、通りに面している箇所に拘束した面々を並ばせたことをきっかけに、警察に対する不満が爆発し暴動が発生する。暴動の規模が大きく、警察だけでは治安を維持できないことから州兵が派遣される。物語はここから始まる。ウィル・ポールター演じる警官のフィリップ・クラウスは、現地の治安を守るための使命感に駆られ、略奪の現場に居合わせたアフリカ系の男性に向けて背後から発砲し、その後死亡させるものの、猫の手も借りたい状況からか睨まれたくらいでお咎めがない。ジョン・ボイエガ演じるメルヴィン・ディスミュークス はフォード工場で働く傍ら、警備員として生計を立てている。その夜はアルジェ・モーテルというモーテルの近くの店で警備をする。ジェイコブ・ラティモア演じるフレッド・テンプルとアルジー・スミス演じるラリー・リードは、地元で結成しているバンド「ザ・ドラマティックス」をメジャーにしたいが、暴動をきっかけにそのチャンスを失ってしまい、失意に駆られつつも暴動を避けてモーテルに泊まることにする。そこで彼らはハンナ・マリー演じるジュリー・アンとケイトリン・ディーヴァー演じるカレン・マロイという家出少女ふたりに声をかける。すると、友達の部屋に招かれて、 ジェイソン・ミッチェル演じるカール・クーパーらと出会う。彼らの悪戯に興が冷めた彼らは部屋を出て、各々の部屋に戻るのだが、カールが州兵や警官のいるところを狙って競技用の空砲を鳴らしたことで、相手は狙撃だと認識し、銃撃戦が起きる。モーテルに辿り着いた面々は、元々武装などしていなかったので早々にモーテルを制圧し、その過程でカールを殺害する。制圧の理由が銃撃があったことであるから、発砲の真相を暴くため、廊下に彼らを並ばせて尋問と称して虐待を行い、殺すと嘘をついて別室で殺害したふりをするという心理的な動揺を与える。しかしながら、元より銃を所持している者がいないため、警察の張り切りも何のことか分からず、しかし一向に物的証拠もなければ証言も得られない警察は焦り、拷問は苛烈さを増していく。警官の仲間のひとりが嘘の殺害を本当に殺害しているものだと勘違いし、自分もやるようにと言われたことを真に受け、本当に尋問相手を殺してしまうので、肝を冷やした警官はひとりひとり解放していくことになるが、見たことを喋るなと言われ、忘れることなどできないフレッドは殺害されてしまう。解放された後、モーテルの殺害は現場に居合わせたディスミュークスの所為にされてしまうのだが、さまざまな証言のためにようやく警官たちが法廷に立つところまで行き着く。しかし、結果は無罪。生き残ったラリーは、白人のために歌を歌い続けることに耐えきれず、「ザ・ドラマティックス」から脱退し、教会の聖歌隊として歌い続ける。

 デトロイト暴動という歴史的な事件を描き、ジョン・ボイエガを一つのパースペクティブに据えることで、アルジェ・モーテルに集うさまざまな人々の背景をうまくまとめることができている作品である。

 張り詰めそうなほどの緊張感が中盤以降続くことになり、この出口のない焦燥――多分に脂汗とともにある――を画面の白人警官たちが表象し、アフリカ系(と一部白人女性)はただただ状況に巻き込まれて怯えるしかないので、このジョン・ボイエガという視点がないことには「何も分からない」という状況に陥ったことは想像に難くない。

 そしてこの三人称のような地点にいる彼も、物語終盤は警察に嫌疑を掛けられ、思わず手が震えるところに、実に小市民的な恐怖感が詰まっており、これは傑作と言うべきだろうと思う。おそらくこのデトロイト暴動、そしてアルジェ・モーテル事件において、その場に無関係な者などいなかった。

 それは我々も同様なのである、というのがこのパースペクティブの意味なのかもしれない。例えばカールが競技用の空砲を冗談として発砲するとき、「何を馬鹿にしているのか」と思うのと同時に、面白おかしくも感じたもので、事態があのときここまで悪化するだなんて誰もしも予想しえなかった。州兵に顔を覚えてもらうとき、コーヒーを手にしたジョン・ボイエガもまさかこんなことになるとは思わなかっただろう。何かが私たちを当事者として招き入れようとしている。そして、この映画は単に「アフリカ系」であるというだけ、である。

 それはそうとして、ウィル・ポールターの悪徳警官っぷりは実によかった。権力の使い方、話し方、自己正当化、事の露見に伴う狼狽――どれをとっても完璧に、あの時代にいそうな白人の、差別主義者である警官を表しているような気がしてならない。

(2020年9月25日、アルジェ・モーテルを「アンジェ」と誤記していたため修正)