Outside

Something is better than nothing.

『グリーンブック』(2018年)

グリーンブック~オリジナル・サウンドトラック

グリーンブック~オリジナル・サウンドトラック

 

  ピーター・ファレリーの『グリーンブック』を観る。

 ヴィゴ・モーテンセン演じるトニー・“リップ”・バレロンガはナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒の仕事を行なっていたが、改装工事のために一時的に休職し、やむなく仕事を探すことになる。持ち前の大食漢としてホットドッグを大量に食して大食いチャンピオンとして金を稼ぐということも一つにはあったのかもしれないのだが、知り合いに斡旋してもらった運転手の仕事にありつくためにカーネギーホールの上にあるドクターの家に面接に向かう。そこにいたのは医者ではなく、音楽家のマハシャーラ・アリ演じるドクター・ドナルド・シャーリーで、彼はディープ・サウスことアメリカ南部を回る八週間のツアーの運転手を探していた。アフリカ系の人間が家に来たときに、トニーの妻リンダ・カーデリーニ演じるドロレスが振る舞った飲み物を入れたコップを捨てるほどの偏見に囚われていた彼だったが、提示された条件のよさに気持ちが傾く。召使いとしての要素を省いた上で、週給を若干上げて交渉した結果、彼は雇われることになり、ドンのレコード会社はアフリカ系の旅行者が安全に泊まれるモーテル等を記載したハンドブック「グリーンブック」を手渡す。どうかすると偉そうにしか振る舞えないドンと、粗野な振る舞いをするトニーは事あるごとに対立していくのだが、ドンの奏でるピアノの旋律にトニーは感激し、またトニーの物怖じせずに距離を縮める姿勢に、双方少しずつ気を許していく。しかし南部のアフリカ系差別の凄まじさは北部の比ではなく、ステージを一歩降りると、ドンは差別に晒されるようになる。ある晩はバーで飲んでいるときに客に絡まれ、ある晩はトイレの場所で差別をつけられる。それ以外にもトラブルは頻発し、ドンは同性愛者として男性と一緒にいるときに警官に捕まりそうになり(そのときはトニーが賄賂を渡して解放される)、またある地域では夜間にアフリカ系の人間が外出していると罪になるため、運転中の彼らは逮捕されてしまう。そのときにトニーはイタリア系の出自を愚弄され、激昂した結果、警官を殴ってしまう。ドンはそのときに弁護士に電話をかけるふりをして、懇意にしているロバート・ケネディに電話し、なんとか逃げる。さまざまな事件や衝突の中で、彼らは友情を育んでいき、やがてはトニーがドロレスに書く手紙へのアドバイスを行なったり、ふたりで笑い合ったりするようになる。しかし、最後の公演のときに、ドンはレストランでの食事を断られ、アフリカ系の人々が集う飲み屋で食事をし、そのときにドンは即興で演奏もする。クリスマスに間に合うように彼らはニューヨークを目指し、雪の中だったが、最後にはドンも運転して到着する。ドンは最初、遠慮して自宅に帰ることにしてトニーを家の前で降ろすが、彼との友情が捨てがたく、トニーの家を訪れる。ふたりは友情がこれからも続くということを実感しながら、温かい抱擁を交わすのだった。

 おおむね好感を持てる内容だったことは間違いない。単純な人種を超えた友情という点よりかは、当時における差別の温度感というものを如実に示し、そこにおける「契約」を元にした関係性の強さがまずあるように思う。冒頭から描かれていたように、トニーは決してアフリカ系の人々を快いと思ってはいなかった。当然ふたりに帰すべき友情の素晴らしさという点が最終的にはあるものの。イタリア系というトニーの出自がやはり重要な要素の一つである。

 思ったよりも複雑な背景があるのだろうが、描かれた側面というところは個人的にはかなり好きな部類で、観ていて、やはりほろりとするところもあった。