Outside

Something is better than nothing.

夜の更新

Northern lights - Budir, Iceland - Travel photography

酒をのめ、それこそ永遠の生命だ、
また青春の唯一の効果だ。
ハイヤーム『ルバイヤート』(小川亮作訳、岩波文庫、P.101)

 楽しい面々と飲んだ後に、「お疲れさまでした」的な展開となり家路に就く頃には、どれだけ酔っていても、ああこの飲み会はその瞬間に「終わり」を迎え、二度と訪れることがないのだ、ということを思う。

 どれだけ酔っていても、いずれその酩酊は終わる。地獄の二日酔いを経るのか、多少の頭痛がするのか、はたまた一切影響がないかは分からない。電車に乗る、最寄り駅に着く――あるいは終電を逃す、タクシーで帰る――乗り過ごして、そこから歩いて帰る。

 星空が、綺麗だと思う。夜ごとの繰り返される悪夢から、この星々は逃れていると感じる。寒空の下で、へべれけの男たちがげらげらと笑っている。女の子が動けなくなってコンビニの前で座り込んでいる。おえおえと嘔吐が止まらない若者が、その身をもって酒の飲み方を学んでいる。

 夜はいずれ終わりを告げ朝が来る。

 けれども終電の間際、「もう少し飲みたい」と誰かに伝えたときに、夜は更新される。更けていく夜の中に、煌びやかな一瞬が絶え間なく広がり、手持ちの金銭を糧にあてどなく夜を更新するツケを払わされる。

 あるいは快楽。手を繋いで歩く緊張。たゆたっていた居心地の良さが、輪郭を与えられて、明確な快感に繋がっていく。ここはどこだ、寝床はどこか。安宿に泊まる私を照らせ。仄暗い照明の中で、とつぜんの宿泊に備えるふたり。女たちは無駄毛を処理する一方で、男たちはガウンを着込んで夢を見る。

 温かいクッションがないことが寂しい。

 頭の中にあった地図は燃やしてしまった。道なき道を、雨の日も風の日も歩いて帰巣本能に従う。闇に紛れて見慣れた道が別の顔をして、待ち受ける。その道を歩いて、家に辿り着くか。あの道が正しいんじゃないのか。

 歩き出して数時間、朝はまだ訪れない。煌びやかな照明の下で、夢幻の女たちが男たちを歓待し、間接照明を灯したベッド脇で攻防が繰り広げられる。

「いいからもう帰れ」と渡された数千円でタクシーを呼び、シメとして食べたラーメンが胃にもたれて止まない。運転手は苦笑して、夜の街をただただ疾走し続ける。 

ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)

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AMEBIC (集英社文庫 か 44-3)

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