柳楽優弥演じる北野武が、大泉洋演じる深見千三郎と出会い、弟子入りしてから、ビートたけしとしてデビューし、大成するまでを描いた作品。
書いてしまえばこれだけになるこの映画なのだが、個人的には北野武に対して並ならぬ関心がある人間としてみれば非常に興味深い作品である——という前提すら不要で、単純に作品として面白いものとなっている。
柳楽優弥はビートたけしという本心を語りたがらない男を見事に演じてみせ、所々は本人と見紛うばかりの演技を見せている。冒頭、明治大学を中退して「何もない」彼は、まさにそういった位置づけで演技しているが、師匠と出会い、「芸人」としての地固めを行っていく中で、少しずつ彼の顔が変わっていく。そして、ビートたけし本人の特質である瞬きや「目」、あるいは体の動き方は監修がものまねをしている松村邦洋だけあって、とんでもないクオリティとなっている。
大泉洋もまた特筆すべき演技を見せていると思う。深見千三郎というキャラクターの魅力を余すところなく伝え、その不器用ながらも思いやりに溢れた人物を好演している。
また、彼の妻として鈴木保奈美演じる麻里がおり、師匠との関係性は好ましい。門脇麦演じる千春といった夢に破れた人物とビートたけしとの対比が、青春ドラマを生み出している。この対比自体は珍しいものではないが、非常に効果的なものだろう。
物語自体は「芸人」としての矜恃を深見に託してビートたけし「以前」の北野武が学んでいく、といったものだが、構成や脚本を含め、劇団ひとりの巧みさが際立っているように感じられる。個人的には感情面を過度に強調しすぎず、しかし画面の中で何が起こっているのかがはっきりと分かるという、当然といえば当然の演出がしっかりなされていること、またカメラによる撮影が固定的なアングルではなかったことが本当によかった。通り一遍の映像ではなく、紛れもなく作品として立っている、といった感じがする。
北野武の音楽性のようなものは、例えば『座頭市』における音の描写でも分かるかと思うのだが、タップダンスにそのルーツがある(ジャズ喫茶もそうなんだろうが)というところを明示的に観ることができて興味深いものだった。
かなり好みの作品である。そして、何より役者が素晴らしかった。本当に素晴らしい。