Outside

Something is better than nothing.

『毒薬と老嬢』(1944年)

 フランク・キャプラの『毒薬と老嬢』を観る。

 ケーリー・グラント演じるモーティマー・ブルースターは劇作家で結婚に反対する姿勢の下で劇評を書いていたが、プリシラ・レイン演じるエレインと恋仲に陥った挙句に結婚することに決める。ジョセフィン・ハル演じるアビーとジーン・アデーア演じるマーシャはモーティマーの叔母として彼と親しくしており、彼の結婚を祝福していた。ジョン・アレグザンダー演じるテディは、知的障害(ないし何らかの精神疾患)があるようで、自身をルーズベルト大統領だと思い込んでいる。彼女らの家に戻って、ナイアガラの滝に行く新婚旅行の途中に立ち寄ったモーティマーは、窓脇の椅子に設置された収納スペースに、ひょんなことから死体があることに気づいてしまう。そこから物語は大きく動き始めることになる。聞くところによると、アビーとマーシャは合計12人もの年老いた男たちを特製のワインで毒殺しており、しかしそれは殺意というよりは孤独に打ちひしがれるのを救っている慈善活動で、そのためなのか殺害する相手はメソジストと決めている。その倫理的な瑕疵についてモーティマーは叔母たちに力説するものの一向に受け入れることができない。テディは「大統領」の職務として「パナマ運河の開拓」を地下室で行っており、その掘り進めた地下室のスペースに死体を隠していることが分かる。モーティマーは著しく動揺し、事態の収拾を図るためにテディを療養所に入れることを目指すことにする。そこで、モーティマーはエレインのことを一旦脇に置くようになるが、エレインに事情を話すわけにもいかないため、彼女にとっては不可解な状態に置かれることになる。テディを療養所に入れるために必要な書類を集めるためにモーティマーは奔走することになるが、家を空けたところにレイモンド・マッセイ演じるジョナサン・ブルースターピーター・ローレ演じるアインスタイン博士がやってくる。ジョナサンはモーティマーの兄で、さまざまな犯罪を犯して逃亡生活を送っていた。怪しげな彼らを一度は拒否する叔母たちだったが、結局押し切られることになる。ジョナサンもまた車のトランクに死体を隠していた。皆、部屋に入った頃を見計らってジョナサンとアインスタイン博士はトランクの死体を地下室に収容することを計画する。すでにある死体はテディが黄熱病被害者として収容し、アインスタインは暗闇の中で先ほど死体があった場所にそれとは知らずに死体を隠すことになる。そこへモーティマーが戻ってきて、死体が違っていることに気づく。劇作家を目指す警察官がたまたま家を訪れたことで、心理戦が展開されることになり、結果としてジョナサンを追い出そうとする目論見は果たせない。警察官を追い出した彼らは、叔母たちの犯罪を隠すために奔走するモーティマーと自分たちの罪の証拠を隠したいジョナサンとで対立する。モーティマーはひとまずテディの療養所を優先することになるため、家を離れることになるが、戻ってきた際にジョナサンに捕まり、拷問を受けかける。しかし、警察官が再びやってきたことで事態が好転し、最終的には警部補の登場によってジョナサンは捕まることになる。叔母たちの犯罪はうやむやになって、モーティマーはエレインと新婚旅行に向かうのだった。

 基本的には悪趣味な作りになっており、あらすじはかなり端折っているのだが、テディの役柄は知的障害者として位置づけられており、その役柄が非常に効果的になっていることはなっている。その特異的なキャラクターが、劇の進行を遮ったり、あるいは進めたりと思いも寄らない行動をしてくれるし、叔母たちが療養所に入れられるテディに対し、自分たちも一緒に行きたいと募る理由もさもありなんと思うくらいに魅力的なキャラクターとなっている。

 悪趣味、というのはこの老嬢とタイトルにも記載された叔母たちの無邪気な12人の殺害で、途中で一人家にやってくることになるので殺害未遂までやらかしている。その様子を見るに、かなり積極的に殺害しようとしている印象がある。

 ジョナサンとして現れるキャラクターはフランケンシュタインの影響があり、また殺人の人数を最終的には叔母と競い合うことになる。なかなかに感心したのは、拷問などをする際に、医療器具の入ったバッグを開けてその一つ一つをしっかりと映し出し、拷問される側にこれから何が起こるのか想像させ、その想像によってもたらされる恐怖感を煽ろうとする演出的な意図が、この頃から明確にあったのだ、といったところで、この描写がこのキャプラの撮った『毒薬と老嬢』からなのかは分からないのだが、以後、さまざまなアクション映画やスプラッタ映画に反復されていることを考えると、一つの貴重な証言であるように思われる。

 ケイリー・クラントは状況に流され続けた結果として、何一つとして思い通りにならないし、そもそも有効な手立てを講じることができなかったキャラクターを演じているのだが、あまり魅力的ではない。状況を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、最終的にはキスに収まるのであった。

 面白いといえば面白いのだが、むやみやたらに状況を掻き回すために引っ掻いた形跡があり、途中でその意図が明らかに分かるために演出上、どうなんだと思う箇所がなくもない。悪くはないんだけど、その部分は無駄なのではないか、とも思ってしまう。