Outside

Something is better than nothing.

『黄金』(1948年)

 ジョン・ヒューストンの『黄金』を観る。

 ハンフリー・ボガート演じるフレッド・C・ダブズはメキシコで同国人に恵みをもらったり、同じく同国人の怪しい男にきつい肉体労働をして報酬をもらおうとしたらその段になって騙されたりしている中、ティム・ホルト演じるカーティンと出会い意気投合する。極貧の中、安宿に泊まったところ、ウォルター・ヒューストン演じるハワードという山師と出会い、金鉱脈を見つけるという夢の話を聞く。最初は一笑に付していた二人だったが、貰い損ねていた報酬を取り返したり、安く買った宝くじが当たったりする中で、何か大きなことを成し遂げようとなけなしの資金を拠出して、金山を掘り当てることに決める。三人は準備を整え、金山を探しに出かけ、そして遂に金脈を発見する。ハワードは金をきっかけに欲望が増大し、おかしくなってくる話をするが、二人は気にとめない。取り分を公平に三等分して、互いに隠し場所を持って保管することになる。しかし、ダブズがだんだんと欲深くなってきて、猜疑心が強くなってきてしまい、カーティンの何気ない行動が隠し場所を探そうとしているのではないかと疑うようになってくる。ある日、カーティンは麓の村に物資を調達しに行くが、そこでブルース・ベネット演じるジェームズ・コーディに出会う。彼もまた黄金を探し求めている男だった。分け前が減ることから彼を巻こうとするものの、結局は追いつかれてしまう。彼を追い払うか、殺すか、仲間に加えるかの三択を迫られた一行は、結局殺すことに決め、ピストルで殺害しようとする。だが、メキシコの山賊たちの襲撃があることをコーディが告げたため、いったんは休戦する。山賊は銃を欲していたが、当然ダブズは応じない。彼らと山賊とはこの山に至るための列車の中で襲撃された因縁もあった。戦いが始まり、銃撃の最中、コーディが死んでしまうものの、政府軍の介入によって山賊を追い払うことができる。コーディは妻子があるが、黄金を求めてここまでやってきたのだった。砂金の得られる量が少なくなってきたため、一行は下山を目論む。帰り道、ハワードが現地の人に呼び出されて連れられる。現地の子どもが川で溺れて意識を失ったため助けて欲しいと懇願され、ハワードは仕方なく集落を訪れる。はったり紛いの適当な処置ではあったものの、子どもは意識を取り戻し、集落から歓待されることになったハワードは、一旦、自身の取り分をダブズとカーティンに託し、歓待を受けることになる。カーティンはコーディの妻子に金を届けるべきだと述べるが、欲深いダブズはそれに反対し、さらには黄金を独り占めするためにカーティンとの争いが始まってしまう。寝ずの番を互いに対して行い、先に眠った方が負けとなる戦いにおいて、最終的にはダブズの欲望が勝利し、カーティンは弾丸に貫かれる。しかし、彼は生きていた。とどめを刺そうとダブズは夜明けに彼の元にやってくるが、遺体はない。都合良く、虎が連れ去ったのだと思い、彼は歩を進める。カーティンはハワードに助けられ、集落で治療を受けてダブズの後を追う。ダブズは満足に水や食料もないまま強行軍で歩みを進めていたが、集落の手前で水たまりを見つけて泥水をすすっているところに、以前に撃退した山賊がやってきて、あえなく殺されてしまう。カーティンとハワードが追ってくる頃には、山賊はダブズから奪ったロバを売りさばいているところだった。しかし、そこへ政府軍がやってきて彼らを処刑する。山賊は黄金をロバの重量をごまかすための砂袋だと思って、捨ててしまっていた。二人は黄金が捨てられた場所へ戻っていくが、そこへ砂嵐が舞い、すべて山に戻っていく。あまりのことに二人は呵々大笑しながら、ハワードはあの集落へ余生を過ごすこととし、カーティンはコーディの妻子がいる、収穫を待つ畑へと向かうことにしたのだった。

 傑作である。ハワードを演じたのはジョン・ヒューストンの父親ウォルターであるらしいが、このあまりに素晴らしい狂言回しのようなキャラクターを完全に欲しいままにしている。そしてこの魅力的な山師が織りなす数々の金言のような台詞こそが、この『黄金』を彩る輝きなのかもしれない、とさえ思えてくる。

 ハンフリー・ボガートは欲深い、黄金に魅せられた男を演じており、序盤から後半に至るまでの猜疑心の強まりが非常に素晴らしい。ティム・ホルトのカーティンも、状況を取り持つように設定されながら、一貫して人間性を発揮しているところが素晴らしい。

 この欲望を巡る物語は、いくつもの類例があるものの、この映画の無駄のなさを的確な構成力には今観ても舌を巻く。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2009年)を思い出しもする、という逆説的なものを感じるが、この長い映画と比べ、本作は的確にまとめられており、一切長さを感じさせない。

 この映画の良さは冒頭からの一連の流れにあるような気もする。メキシコにおいて最底辺を生きるダブズの惨めさ(同じ男に三回も恵みを求めて、あまりに恥知らずだと逆に怒られたりする)がしっかりと描かれているところだろう。厳しい肉体労働の果てに、結局報酬をもらえなかったりするところも良い。そして、ハワードと出会って山を登っている最中に、探し求めていた黄金の何たるかをまったく知らず、金色にきらめく岩石を黄金だと勘違いしてはしゃぐダブズとカーティンの描写も良い。一切の描写が無駄になっておらず、冒頭のクジ売りの少年に辛く当たるところですら、無駄になっていない。

 本当に素晴らしい映画であった。