Outside

Something is better than nothing.

『トムとジェリー』(2021年)

 ティム・ストーリーの『トムとジェリー』を観る。

 猫のトムはニューヨークで歌手になるためキーボード一本でやってきた。トムは自身が盲目と偽ってセントラルパークで芸を披露していたが、物件を探していたネズミのジェリーに見つかってしまい、ジェリーはトムのピアノに合わせてダンスをすることで聴衆の注目をさらっていく。それに気づいたトムはジェリーを追い回すが、その時にクロエ・グレース・モレッツ演じるケイラの自転車にぶつかってしまい、挙句にはキーボードが折れてしまう。ぶつかられてしまったことでケイラは仕事をクビになってしまい途方に暮れるが、無料朝食を目立てにホテルを訪れたときに、彼女はたまたまセレブの結婚式が近く、臨時のスタッフを雇っていることを知る。咄嗟に面接官だと偽って、経験豊かなスタッフ候補を騙した後、彼女は手に入れた履歴書を元にホテル側と交渉し、見事スタッフとして採用されることになる。コリン・ジョレスト演じるベンと、パラヴィ・シャーダ演じるプリータの結婚式のため、ロブ・ディレイニー演じるホテルの支配人ヘンリーと、マイケル・ペーニャ演じるイベントマネージャーのテレンスと協力していくことになる。一方、ジェリーはケイラのやってきたホテルに辿り着き、そこで夢見た合成な住居を構えることに決める。ホテル内をこっそり動き回り、ホテルの備品や宿泊者の荷物を少しずつ盗んできて、ホテルの一角に家を構えていく。トムはジェリーを追いかける過程でホテルに入ろうとするが、あっさりと止められてしまう。ケイラはホテルのスタッフであるジョーダン・ボルジャー演じるキャメロンや、パッシー・フェラン演じるジョイと顔合わせを行い、ベンのいかにも金持ち風の意味不明なオーダーに応えていくことになるのだが、その中でホテル内にネズミが出たことがコック長のケン・チョン演じるシェフ・ジャッキーにより判明する。ケイラは支配人からネズミを駆除するように仰せつかり、ホテルの宿泊客に悟られぬよう秘密の捜索が始まる。その頃、トムは雨の中、家もなくホテルの周りをうろついていた。野良猫ギャング団のニッキー・ジャムが声で演じるブッチにも目をつけられ派手なことはできない。しかし見上げると、ホテルの一室で悠々自適と贅沢しているジェリーを見つける。トムは頭の中で悪魔と天使のせめぎ合いを経て、いよいよホテルに飛び込むことに決める。あれこれ策を練った末にジェリーの居室に入り込んだトムはジェリーと大騒動を繰り広げる。そこへ客室からの苦情申告に従ってやってきたケイラとの再会を果たすのだった。ケイラはトムとジェリーの確執を知り、逃げ出したジェリーを捕まえるためトムをホテルの臨時スタッフとして雇い入れることを画策し、支配人の了承を得る。ケイラはプリータとも仲良くなり、大きなダイヤモンドが拵えられた婚約指輪がなくなってしまったことにも対処する。トムは与えられた職務を務め、ジェリーを捕まえることに成功し、彼を中国行きの段ボールに閉じ込めて輸送するのだったが、なんと彼はプリータの指輪を持っていた。ようやく任務が終わり一息ついた頃に、プリータの愛猫に色目を使ってピアノを弾くトムの前に、悠然とジェリーは戻ってきて挑発するので再びホテル内で大騒動が巻き起こるが、ジェリーが見せつけたダイヤの指輪を前にケイラが折れる。ようやく一連の騒動は収束したかに見えたが、ベンの凶暴な飼い犬であるところのボビー・カナヴェイルが声で演じるスパイクがやってきたものだから、動物たちの大騒動であるところの動物台風が巻き起こり、ホテルの象徴でもあったロビーの屋根をも割ってしまう。しかし、その責任を取らされたのはスパイクを散歩に連れていたテレンスだった。その代わり支配人からケイラは結婚式のイベントを統括するマネージャーになるように言われる。彼女はトムとジェリーに対し、協調を説き、その証としてニューヨーク観光を勧める。新郎のベンはプリータのために張り切っておりゾウを呼んだりと派手な演出を行なっているが、プリータはその気ではない。トムとジェリーは最初こそ仲良くしていたが、野球観戦のときに衆目に晒されたことで動物管理局に捕まってしまう。捕まった彼らにテレンスが面会にやってきて、互いの中を引き裂こうとする。結婚式当日になったものの、ゾウやクジャク、挙句にはトラまで動員されているド派手な結婚式が開催されるが、テレンスの策略で放たれたトムとジェリーによって結婚式は台無しになってしまう。ジェリーを見つけたコック長が暴走してウエディングケーキを粉砕し、ジェリーを見つけた小心なゾウが怯えて暴れ出し、スパイクとトムが争い始め、そこにトラが入り込む。再び動物台風が巻き起こり、後には廃墟にも等しい会場だけが残る。テレンスの追求にケイラは自分が嘘をついていたことを認め、ホテルを去る。プリータもベンに指輪を返し、去る。キャメロンから励まされたケイラは、改めて二人の結婚式をやることを決め、トムとジェリーに再び手を組む。キックボードとドローンを使ってトムとジェリーは見事に協力しながら、空港に帰っていくプリータを呼び止め、セントラルパークで、彼女が本当に望んだような形での結婚式を開催するのだった。

 何と表現することが正解なのかは分からないのだが、トムとジェリーについては私は子供の頃からとても親しんでいて、そういった意味ではフェアな感想を述べることは難しいのかもしれない。

 映画自体は『ロジャー・ラビット』や『スコット・ピルグリム』などを経て、実写とCGの融合が見事になされているように感じられ、個人的にはトムとジェリーという存在が(映画の中では動物たちすべてがCG)現実の世界に現れたときの「自然さ」が嬉しかったように思う。

 ドラマ自体はクロエ・グレース・モレッツの髪の毛先を常に気にしている野心溢れる女の子が牽引していくことになるのだが、中盤の、彼女の話が中心になってくるあたりで、一体何を観ているのだろうという気分に陥ったことは正直に告白しなければならないだろうが、そうは言っても後半のトムとジェリーによる抜群のアクションが格好良いので涙なしには観られない、と言ったところだろうか。

 映像表現として、私はこの映画を肯定したいと思う。これを可能にしているのはトムとジェリーだからだ、といったような気もする。要するに彼らのキャラクターがそれだけ親しみやすいのだ、と。ただ、もちろんこれは私の補正によるところもあるので、一概には言えないのだが。この自然さを表現するために相当の工夫が必要だったのではないか、と推察する。

 私自身はベルギーにいた頃に、(当然子供だったのとフランス語が喋れなかったので)子供向けの番組を現地の放送で観るとき、彼らのドタバタを観られること、そしてそれが「分かる」ことが何より嬉しかった。彼らのドタバタは言語が不要でいて、何より楽しいものだった。私も動物を飼った経験があるが、彼らの馬鹿馬鹿しい愚かしさは、裏返せば純真であるし、無垢であろう。例えばこの映画でジェリーはチーズの匂いを感じるときに、匂いのマーカーに沿って空中を漂っていくが、その寸前のところまでは豪華な部屋を拵えていたはずである。

 最初はかなり戸惑いを覚えたのは事実だったのが、観始めるとさほど違和感を覚えることなく観ることができたし、ヒップホップ寄りに作ってきたところもまた現代的なのかもしれない。ただ古い作品を現代化するにあたってヒップホップ(あるいは、ヒップホップ的なビート)の導入が本当に正しい戦略なのか、というのは私には結論が出せないところではあるが。むしろオーケストラや音質強化だけでも良かったのではないか、と思う。

 とはいえ、本当に楽しい作品だったのは事実。