Outside

Something is better than nothing.

金木犀の香り

A fragrant orange-colored olive

 取り立てて具体的な思い出と結びつくわけでもないのだが、とりとめのない日常の中に金木犀の香りがやってくる瞬間というのはあって、例えば地元にいたときのことではあるが、私は犬の散歩をしているとき、ふと香しいものを感じたと思ったらそれは金木犀であった、というような些細なものだ。

 最近使っている入浴剤の中で、金木犀の香りがするのを使っているからなのか、別に秋口でもないのに金木犀を感じてふと犬の散歩を思い出す。香しいものではあるのだが、その甘ったるい香りはどことなくいやらしさも感じさせるのであって、いやそもそも花の香りというものはそういうものではなかったか、と思うのだが、しかし犬の散歩で思い出すというのは犬の糞尿を想起するということでもあって、記憶というものは常に綺麗なものではないらしい。

 なんだか懐かしい気持ちもするのだが、秋口の金木犀というときには秋口の空気感、冷気が少しずつ忍び込んできて、私は特に掌がむくんだようにパンパンになってしまうということを思い出す。

 途方もない茫漠さを湛えた地元ではあるが、そこは小さな島であって、なぜそこが茫漠なのかということはある種のアリス症候群めいたものではあったのだろうと推測はできるのだが、私はそこで犬を連れながら秋口、どこまでも広く延びていく世界を感じた。金木犀の香りとともに。