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『ファースト・マン』(2018年)

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)

 

 デイミアン・チャゼルの『ファースト・マン』を観る。

 ライアン・ゴズリング演じるニール・アームストロングは宇宙飛行士として訓練に励んでおり、目的意識のために自己統制を行う人物であるものの、自身の愛娘であるカレンが病気により幼くして亡くなってしまうことにショックを受けている。しかしながら、宇宙飛行への秘めたる思いは捨てきれず、むしろそのことがきっかけとなり、彼はクレア・フォイ演じる妻ジャネットの献身もあり、宇宙飛行士として採用される。ジェミニ8号で宇宙空間でのドッキングを成功させるとともに、今度は月を目的とした宇宙開発に身を投じていくのだが、アポロ1号の発射テスト時に仲間が火災で亡くなってしまうことをきっかけに、月に行くことへ執着していく。それはアポロ11号でニールが帰って来られるか分からない旅に出るその前夜、残された息子たちに声をかけることもできないくらいに。しかしながら、ニールは仲間とともに月に降り立ち、かの有名な台詞を述べ、そしてクレーターの中にカレンの名前が入ったリングを投じる。隔離のために地球帰還後のニールに会うことができなかったはずだが、ジャネットは特別に三週目に面会を許され、そこで何かが終わる。

 宇宙飛行に際する閉鎖空間内でのあれこれが詰め込まれており、例えばジェミニ8号のドッキング後に発生する、毎秒1回転以上の機体の回転などは、音響もあいまっておどろおどろしくなってしまう。もちろんそれは冒頭のX-15の飛行実験にしたってそうで、アポロ11号における月面着陸に至るまでの描写もまた同様であった。あるいはアポロ1号における火災事故の、あまりの呆気なさ。

 大勢の死者たちに囲まれながら、ニールは月へ向かおうとするのだが、ここで描かれる個人的執着は、しかし大きな声ではなく、静かな内面を感じさせるだけで画面が展開していく。アポロ1号の事故の後、彼は庭で月をスコープで覗く。誰からも話しかけられたくないがゆえに。もはや夫婦としてのコミュニケーションすら危うい状況の中で、必死に安定を求めるジャネットは辛うじて繋がっているはずの息子たちと父親との絆を結びつけようとするが、長男はすでにそれがある意味では失われてしまったのではないか、と気づいている。

 彼の静謐さが、宇宙空間における孤独と連なり、またEVAの無音、宇宙の無音にも繋がってくる。

 強いて言えば、月面着陸における劇伴の使い方があまりに大仰すぎて、さすがにこれではまるでノーランの映画ではないか、と思ったのだった。