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二月の振り返り(Stairway 2)

Black Sands, Dark Skies.

 先月とは異なり、二月という月は一年で最も短いものではあるのだけれども、なぜだか長く感じてしまったのは体調の変化があったのかもしれない。寒さは強まっていたし、実際雪も降ったものの、同時に春の訪れを感じる瞬間というものも増えた。

 春の兆しをどれだけ感じようが、世の中の動きというものは巨大な獣のようなもので、私たちのコントロールできるものではない。けれども、それを追っていくことはできるのだし、おそらくその軌跡が最終的には獣に抗することができる、手綱のようなものなのではないか、と思う。

 二月という月で印象的なのは、何よりもまず相場が不安定だった、ということだろう。米国株が金利情報を危険視し、ダウ平均株価がかなり値を下げたことをきっかけに、日本株もまたアメリカの状況により上下する展開が続いた。

www.nikkei.com

 この状況は現在も続いているものの、労働者の立場からすれば労働の対価としての賃金上昇が望ましいところで、春闘の時期が来るため労働者向けのニュースが来るかと思っていたら、今国会で成立を目指す裁量労働制を含む、いわゆる「働き方改革」が、取り扱われているデータの前提が異なっていることで問題になった。だが首相は改革を強行しようと試みているものの、現在のところ、一旦先延ばしにされている。

business.nikkeibp.co.jp

 いくつか関連記事を読んでいく中で目に留まったのは、この小田嶋隆の記事で、内容としては世の中のさまざまな事柄に対し、人々が本来の立場を軸に物事の正否を問うのではなく、最も上の立場(ないし裁量権を多分に持った「司令官」)として語る、という指摘である。これはぐうの音も出ないほど正鵠を射ている。話はやや逸れるが、ブレイディみかこを人が読むときに、この書き手の力に引き込まれるのは書き手の視点がぶれないことだろう。彼女は「地べた」とよく述べるが、そこを離れることなく、例えば「働き方改革」にしても何にしても語っていく、ということは非常に難しいと思うのだ。

 ほぼ同じステータスの人間同士が、実際には立ってすらいない地点を軸足にして物事を語っても、それは最終的に自分で「天」を落としているだけだ。踏みしだく架空の大地への足が多ければ多いほど、その大地の墜落は早くなるだろう。そこでもたらされるのは、本来ならば連帯する必要があるはずの弱い立場のものである。今月もまた、分断を引き起こすためのさまざまな言説が世に溢れた。

www.huffingtonpost.jp

 政治評論家の三浦瑠麗がテレビ番組で大阪にはスリーパーセルがたくさんいると発言したことをきっかけに炎上が起こったし、おそらくトランプを真似ているのだろう首相はこの国の首相らしい惨めなコメントを飛ばしている。

www.j-cast.com

 また、ほとんどある方面の御用新聞と化している産経新聞琉球新報沖縄タイムスといった沖縄メディアに対し、自身の作り出したフェイクニュースを根拠に非難を浴びせていたが、いよいよフェイクニュースの指摘から逃れられなくなると、珍しくメディアとしての最低限の自浄作用は示して見せた。

www.sankei.com

 一方、この国の首相が態度を真似ることとなった大統領が統治するアメリカでも銃乱射事件がまたしても起こってしまい、繰り返される銃社会の問題に全米ライフル協会への優待を取りやめる企業も増えているらしい。

www.asahi.com

 また、先月より続いている「me too」運動の局地的で女性蔑視的なカウンターになるのか、この国において断続的に問題化される「女性専用車両」についての非常に暴力的な実力行使が起こったのも記憶に新しい。

www.asahi.com

 個人的には痴漢行為というのは当然犯罪であり、その被害者数は男女問わず相当数いるものと思われる。日常的な電車の利用に際し、ささやかなシェルターを用意することについてはいささかの反対意見も有していない、ということは表明しておくべきだろう。私は幸いにして痴漢の被害に遭ったことはないが、妻は遭ったことがあるらしい。

 とはいえ、こういった分断は今やあちこちにクレバスのように広がっており、その深い断絶を飛び越えるためのコミュニケーション自体も先の記事のように、暴力的な実力行使の結果、難しい。例によって何度も思い出すのだが、「信じがたい憎悪」がここにもあるのである。

www.asahi.com

 中国関連では、習近平国家主席が任期撤廃の改憲案を出しているというニュースがあり、中国国内ではこれへの反発として車をバックさせるといった「逆行」を暗喩する動画等を投稿しているらしいが、中国当局に片っ端から削除され、禁止ワードにも指定されたらしい。この動きはやや危険な予感がするものの、推移を見ていくしかあるまい。

 最後に、平昌オリンピックの開催もあったのだが、スポーツ関連はあまり興味を持てないのでざっくり割愛し、芸能関係で言えば名バイプレーヤーとして名を馳せていた大杉漣が亡くなった、ということを取り上げようと思う。

headlines.yahoo.co.jp

 北野武映画の常連として私は映画の中で観る大杉漣の姿が好きだった。まさかこんなに早く亡くなってしまうとは思わなかったため、一瞬字面が理解できなかったのを覚えている。また、バラエティーでの出演についても私は結構好きだった。

 振り返ってみると嬉しい話題がほとんどない。これ以外にもアルマーニの制服を取り入れた小学校の生徒に、道行く人が絡むという、およそ子供に当たっても仕方ないのではないか、という人心の荒廃が見受けられるのだが、最後にチャック・パラニュークの『ファイト・クラブ』(池田真紀子訳、ハヤカワ文庫、位置: 963)からの引用を記して、本稿を終えることにしたい。

「すべてを失ったとき初めて」タイラーが続ける。「自由が手に入る」

ファイト・クラブ〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ファイト・クラブ〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

 

 

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joek.hateblo.jp