Outside

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一月の振り返り(Stairway 1)

Day 133/365

 早いもので一月も終わってしまい、二月という新たな季節がやってくることとなった。私の年末年始はと言えば、一月二日に人生で二度目の、眠り以外による意識の喪失が訪れ、死ぬかもしれない、ということを俄に感じる始まりだった。

 とはいえ、それ以後は状況は再発せず、医者にも聞いたところ気にする必要もないということであったので、そういった意味ではまだまだ若いということなのかもしれない。

 続くかどうか分からないのだが、その月にあった出来事で、私の興味を惹いたものを簡単に振り返り、備忘としたいと考えている。

 年始早々、日立製作所の英国での原発事業についての記事が目に触れた。今年の年始には前述の失神騒動があったため、振り返る余裕がなかったのだが――私は毎年、金井美恵子の『日々のあれこれ 目白雑録4』を読んでいる。これは東日本大震災に際して、文学者を初めとする人々がいかに無責任かつ無神経な物言いをしてきたかということを、金井らしい繊細な手つきで選り分けていくものなのだけれども、上述の原発輸出の記事を読む限り、すでに首相も昨年の段階で震災後六年ということを節目に会見を打ち切っていることからも分かるように、大地震の記憶は薄れているのだろう。オールジャパンで取り組むらしい英国への原発輸出は、しかしその融資額に政府保証をつけるなど、失敗した場合の国民への損失が懸念されている。

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 年始と言えば、今年一年を占う記事が多く発出されるものだが、ロイターの「コラム:2018年の世界はどうなる、重要な「5つのポイント」 | ロイター」で真っ先に取り上げられているのは、トランプランドことアメリカのことで、思えばトランプは2017年の年末に大型減税を策定し、海外で上げた利益を本国アメリカに戻す際の税を非課税にしたのだった。いわゆる「トランプ減税」をきっかけに本国に還流された資金が、大企業の従業員の賃上げに貢献しているという記事も日経新聞には記載されている。

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 トランプの施政は一年に達した。一般教書演説の中では自身の成果を強調していたが、施政一年の間にアメリカの分断はさらに広がったかのように直感的には感じられる。悪名高いグアンタナモ収容施設について、前大統領のオバマは閉鎖を表明していたが、この演説の中でトランプは維持を表明した。例によって「テロとの戦い」を押し進める姿勢を取ったわけだが、人権を著しく侵害するという根深い問題はおそらく以前に私が取り上げた「信じがたい憎悪 - Outside」の前では無意味なのだろう。

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 また議場に「Me too」運動を行う人々が抗議に訪れた、という記事もあった(毎日新聞の記事)。ハリウッドの有名プロデューサーであるワインスタインへの告発から始まった一連の(主に)女性へのセクハラ被害を告発する運動は、もちろん数々の女性蔑視及びセクハラ告発を受けているトランプにも向けられている。

 この運動は日本国内にも波及し、作家のはあちゅう電通時代に受けたセクハラ、パワハラ告発を皮切りに、大きな影響を及ぼすには至った。ただし、その後、はあちゅう自身の、旧来的な男性的な価値観に基づいたポリティカル・コレクトネスに背く発言の数々がクローズアップされ、対応に問題があった関係で下火になりつつある。とはいえ、この「Me too」運動については継続的に続くことが望ましいだろうと思うのだが、多くの国々でこのような運動が起こる反面、そのアンチテーゼとしての発言も出てくる。

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 好意を寄せただけで、その寄せ方に行き違いがあったことを元に、男性に対して過度に懲罰的な制裁を加えるのはいかがなものだろうか、といった「Me too」運動に対する疑義を表明し、それらを「口説く権利」と分かりやすい語彙に当てはめている。

 これには多くの反論が寄せられたが、個人的には「女性に対する暴力と社会の進歩 | modus inflamarae」という記事に書かれていた内容が納得できるものだった。「この記事[上述の記事等の「口説く権利」のこと]の中では『単なるナンパくらいいいだろう』とか、『しつこくする自由ぐらいあるだろう』なんていう人たちは、実際の『ナンパ』だとか言われていることがどれだけひどく屈辱的なことなのかを知らない。この一連の#Metooなどの流れは、そういう側面を問題にしているのに。」という内容は非常に説得的であり、同時に私の語彙で言えば「同意」の問題だと言える。恋愛や性的な関係を結ぶ際には、双方の同意を結ぶ必要がある、と私は考える。その上で、仮に痴漢や暴力的な服従関係を、言わば「プレイ」として行うのであれば問題はなかろう。ただ、実際上、そういった関係性というのは「同意」なしに行われる。それこそが問題であり、発端となったワインスタインなどは部屋に新人女優を招き、裸でそれを迎えマッサージをさせるという手口を多用していることから、可能な限り同意があったかのように見せかけたかったのであろう。しかし、実際上、新人女優とハリウッドの名物プロデューサーの間には地位の上で不平等であり、「同意」できていなかった。結果としてそこが問題になってくる、と私は考える。

 ただ、たとえある種の関係性を締結するに際し、双方の同意に基づいたものであったとしても、スキャンダルとしてあげつらわれる立場になる人物がおり、それが今回の場合は小室哲哉だった。

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 彼は妻の介護疲れから鬱状態に近いのではないかと精神状態を心配するコメントを多く見たが、結果として面白半分に捉えた週刊誌により、引退に追い込まれた。このように追い詰められた人を追い込むことはこの国では日常茶飯事と言え、例えばそれは福祉の分野でも同様に発生している。

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 小熊英二の分析の中では「つまり問題はこうだ。もともと日本の福祉は、貧しい人の支持を得ていなかった。そのうえ近年は、社会全体が余裕を失うなかで、ますます福祉への支持が失われ、格差が拡大しているのだ。」と述べられている。元よりこの国における所得税等の逆進性は高いと指摘があり(新・日本の階級社会 (講談社現代新書)等を参照)、適切な再分配が果たされていないという指摘は多い。だが、ひとまず国は制度の見直しよりも強制力の強化へと動いているようだった。

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 年金の未納に対する強制徴収の対象が広がる模様で、現行の十三ヶ月から七ヶ月になるらしい。しかし多くの「貧しい人」が当然のようにおり、記事の中では対象者は37万人もの数に上るらしい(すべてが「貧しい人」というわけではない)。とはいえ、その中でも最新の技術を用いてデジタル・ゴールドラッシュにいそしむ人々、そしてそのラッシュの最中から蹴落とされる人々も多くおり、仮想通貨販売所を運営するコインチェック社がNEMという仮想通貨を不正に流出させられ、およそ580億円もの被害を出したというニュースを最後に扱いたい。

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 この一連の騒動についてはまだ一定の解決が図られたわけではないにしても、この記事中に述べられていることが真実であれば、なかなかに問題は根深い。仮想通貨については、インサイダー取引のような形で内部関係者のみが儲かるのではないか、ということが最近取り沙汰されているように感じられる。私もあまりブロックチェーンを初めとした諸々の技術に明るくないため、実情についての理解は覚束ないのだが、銀行もまたブロックチェーン技術を活用した独自通貨の発行を始めるというニュースもあるため、今後の推移を見守っていきたいという無責任な文言で一月の振り返りを終える。