Outside

Something is better than nothing.

桜の不在

CherryBlossom

 まったく気づかなかったのだけれども、通勤途中、学校の前に桜が咲いていた。けっこうびっくりした。別に俯いて歩いていたというわけではなく、普通に歩いているつもりだったのだが、まさか桜が咲いていたとは思わなかった。

 帰宅途中に、毎日行き帰り歩く道のりを通っていたときに、ふと目の前に秒速5センチメートルが!しかし、私は別に桜に思い入れはないので、ああ、と思って見上げたわけなのだが、曇り空の灰色の空の手前に、色鮮やかになりきれていない、おそらく人生でもっとも美しくない桜が現前して、私は二重で驚いた。

 花見が好きというわけではないし、むしろ井の頭公園周辺に住んでいたときは、花見客の殺到のために殺意すら湧いてしまうようになったのだが、そうなってくると秋頃の桜の樹というか葉の方が好みになってしまい、あの、非常に日本的な存在を仮託された桜の花びらの不在が、むしろこちらの心を安らかにしてくれると言いすぎると、政治性を持ちすぎているか。

 とはいえ今春見ることになった桜の秒速5センチメートルというものは、私は驚くべきほどに心象風景を表しているものなのかもしれず、ただ天候というケイオティックな代物による偶然性の表れなのかもしれず、あるいは神の手なのか。

 果たして定かではないのだけれども、ぽかぽかとした春の陽気がどこか忌々しく思われてくる。