Outside

Something is better than nothing.

『イミテーション・ゲーム』(2014年)

  モルテン・ティルドゥムの『イミテーション・ゲーム』を観る。

 ベネディクト・カンバーバッチ演じるアラン・チューリングアスペルガー症候群的に自分の天才を鼻にかけて他人と協調することができない性格が災いして、自宅に侵入した泥棒を捜査するためにやってきた警部に不審を抱かせてしまう。警部は第二次大戦中のアランの経歴を調べていく中で、その時期の経歴が空白であることに行き当たる。これは何かあると思った警部は、たまたま取り調べた男娼がアランとの同性愛について自白するため逮捕し(当時、イギリスでは同性愛は罪に問われた)、彼を取り調べる。そこで彼は大戦中の驚くべき出来事について語り始める。アランは暗号解読のためにイギリス軍に雇われ、当時解読不可能と言われたドイツ軍のエニグマという暗号を解読するためにチームを結成する。しかし、協調的ではないアランは周囲と打ち解けることができず摩擦を生み出す。チームがアランの意のままにならないことを受け、時の首相チャーチルへ手紙によって直訴し、多額の予算を獲得し、さらにチームの主導権を握る。使えない人材をクビにして、クロスワードによって新たな人材の確保に乗り出したアランは、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークの鮮やかな才覚に出会う。しかし当時、女性は積極的に「男性並み」の仕事に就くことはできず、影から彼を支えることになる。彼女の助言によって彼は、マシュー・グッド演じるヒュー・アレグザンダーを始め、チームの面々と次第に打ち解けていく。ジョーンとの間に好意が芽生え、結婚しないと仕事を辞めなければならなくなった彼女とも婚約し、彼らの研究自体も「クリストファー」と呼ばれる暗号解読装置を一応の完成にまでこぎ着ける。しかしドイツ側に暗号の解読ができたと分かってしまうと対独戦争に勝利できない可能性があることから、MI6のマーク・ストロング演じるスチュアート・ミンギスに協力を依頼し、戦争終結までの間、カバーストーリーによって情報を小出しにしていき、統計学的に「クリストファー」の暗号解読を実践する旨を取りつける。そして戦争は勝利に終わった。だがチームの中にソ連のスパイがいたり、ジョーンとの婚姻関係を解消したりするなど、アランの精神状態は著しい変動に曝され、戦争後は彼自身の論文に基づいたコンピューターを作成する。そして、そこを警察に捕まってしまった。彼は有罪判決を受け、刑務所に入る代わりに女性ホルモンを投与することを了承するも、ジョーンがふたたび彼の自宅を訪れた頃には完全に参っている状態だった。その後、彼は自殺する。アランは学生時代はその特異なキャラクターから壮絶な苛めに遭っていた。だが彼には心を許した親友がおり、その名をクリストファーといった。彼に暗号についての本を借り受け、その後、彼とのやりとりは暗号を介したものになっていく。卒業するときに、アランはクリストファーに「I LOVE YOU」と書いた手紙を送ろうとするものの、校長に呼び出されて彼はクリストファーが結核で死んだことを告げる。アランは初めて愛した男性を、「クリストファー」として蘇らせようとするかのごとく、生きたのだった。

 丹念に描写を積み重ねていて、最後まで飽きさせることのない映画だった。

 アランの混乱したキャラクターをベネディクト・カンバーバッチが見事に演じている。カンバーバッチの肉体そのものということにはなるのだが、劇中アランがランニングするシーンが二度か三度ほど挿入される。そこでの彼の肉体の、決して筋骨隆々としていない様が『イミテーション・ゲーム』で描かれたアランというキャラクターにぴったり嵌まっており、これは見事だと思うのだった。あのランニングのシーンは、決して美的なものではないが、アランのキャラクターを説明するために必要不可欠なものだと考える。なぜ彼はまるで何かを追い求めるかのように走るのか。(時代的な背景があるにしても)なぜランニングシャツで走るのか。

 スチュアート・ミンギスの常にストライプのスーツを着ている様も個人的にかなり好みであって、あの辺りの微妙な衣服具合はおそらく狙っているのだろうと思う。ヒュー・アレグザンダーのキャラクターと衣服もよかったような記憶がある。キーラ・ナイトレイは実に美しく、当時として相当に自立している考え方を持つキャラクターとしてアランのパートナーとして一時的に立候補する必然性を持っている。

 時間軸は三つの時間(子供時代、大戦中、大戦後)を行き来することになり、冒頭、一瞬だけ展開がどうなっているか混乱したものの、意味が分かるとそれほど煩雑でもない。かなり分かりやすくアランの状況について語るため、なんとなくタイトルから小難しい印象を抱いていたが、そんなことはない。良作だったと思う。