Outside

Something is better than nothing.

『マネー・ショート』(2015年)

  アダム・マッケイの『マネー・ショート』を観る。

  未曾有の経済危機だったサブプライム住宅ローン危機に焦点を当て、その危機の中で巨額の利益を上げた人々を取り扱っていく。クリスチャン・ベール演じるマイケル・バーリはファンド経営者を演じ、いち早くサブプライムローンに潜む問題に気づき、CDSクレジット・デフォルト・スワップ)を周囲に馬鹿にされながら大量に買い込む。不動産ローンを証券化した不動産担保証券は、当時はデフォルトするはずのないものとして扱われ、バブル状態にあったが人々はそれに気づかず、そして高度すぎる金融商品は誰もその原理を理解することができない状態にすらあった。マイケル・バーリは証券に組み込まれた各借り手の支払状況など、細々としたことをチェックしていき、問題に気づいたのだった。スティーヴ・カレル演じるマーク・バウムは正常すぎるため誰しも敬遠し、一種の異様さすら醸し出しており、そんな彼の金融業全般への正当な倫理観に賛同するメンバーと共に小規模な会社を経営している。彼は間違い電話を元に、このバブル状況を知る。ブラッド・ピット演じるベン・リカートは以前はウォール街で働いていたが、それに嫌気が差し引退し、今はオーガニックな生活を送っているが、小規模なヘッジファンドに担がれて、この状況に関わるようになる。そして映画全体の狂言回しのように登場するのがライアン・ゴズリング演じるジャレド・ベネットということになる。

 映画は映画的な文法に沿って、この未曾有の金融危機を描くことはしない。ほとんどフィクションとしての結構を放棄して、キビキビしたドキュメンタリーのような映像を仕上げていく。個人的にはその映像編集はトニー・スコットの後期の作品を思わせるもので、久々に彼を思い出して私は懐かしく思った。

 この果てしなく高度化していった金融工学に基づいた金融商品を、ライアン・ゴズリング演じるジャレドが怪しげな采配をふるって、解説していく様はまさにこの状況に参加するに相応しい。

 基本的にあらゆるものを経済という観点からしか見ることのできない金融の業を描いているようにも感じられ、それは邦題の副題にもあるように「大逆転」する彼らも同様である。スティーブ・カレル演じるマークやブラッド・ピット演じるベンだけが、ほとんど唯一その経済に飲み込まれた価値観と距離を置いているが、けれども彼らは彼らの業をきちんと理解している。

 映画は傑作であり、既存の映画的な語り方からは一線を画しているというところが本当に好感が持て、久々に最後まで目が離せない画面作りをしていた。食い入るように観る、とはこういう経験だったよな、と。こういった映像はまさに映画に相応しい。なんだか最近、画面を観ていて退屈を感じて仕方ないという状態から抜け出せたのはありがたい。

 最後に、先ほども触れたが、この映像を観ながら、トニー・スコットがもしまだ生きていてもっと映画を撮っていたら……と個人的には思うのであり、別にこの映画の射程はそこにはないのだが、観ていて連想してしまったのだから仕方ない。

(2017年1月11日、タイトルに中黒が入っていなかったため修正『マネーショート』→『マネー・ショート』)