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『説明書』公開

説明書

説明書

 

公開 

 掌編集『説明書』を公開しました。99円で購入可能です。Kindle Unlimitedでも読めます。

収録作品

Wind
止んだ雨
Without Your Love
ある言葉
Postpone
剥がれた事態の成れの果て
煙の代償
左腕の夢
バベルの遺書
三年という月日の思い出
分身
機械的変容

コメント

『説明書』の制作

  一人称をテーマにした作品集『機械』を執筆後、ほぼ同様のテーマで圧縮版を制作したい欲求に駆られた。一人称は人称でありながら、非常に興味深い奥行きを備えていると思う。三人称で物を書くことも不可能ではないのだが、語りを設定するにあたって一人称は狭いようで広い視野を備えている。その視座や語る人物の社会的背景など、一人称で語ることによる効果は計り知れず、そのためにさまざまな仕掛けを施したい欲求に駆られるのだ。

 ここに収録した作品のいくつかは、ライブイベント(?)のフライヤーに掲載するために寄稿したものもあるし(「煙の代償」「バベルの遺書」)、ライブ動画中にリアルタイム競作を行ったときに書いたもの(「左腕の夢」)もある。また、文学フリマにかつて出店した際に、フリーペーパー用に書いたもの(「分身」)もある。

Wind

 個人的には物凄く好みの掌編に仕上がった。一気呵成に書き上げたのだけども、割と完成度が高くて好き。あるシチュエーションの中に心理状態と人々の動きの過程が描かれて、最終局面があるという具合に、短いながらもうまく書けた作品。

止んだ雨

 イベントのフライヤー用にいくつか書いたうちの一つで、元カノ話。寄稿は「煙の代償」に譲り、手元に置いていた作品となった。

Without Your Love

 一人称には単数もあれば複数もあるが、「私たち」という人称を使った作品。この複数の「私」は、かなり扱いが難しく、効果的に使うにはある社会的集団を代表した意識がもっともいいのだろうが、ここでは「彼ら」を対置し、ある宗教集団の終わりに対する、総体的な社会集団としての「私たち」として構成した(つもり)。

ある言葉

 あらゆるものは既存のテクストからの引用である、というわけで、引用話。

Postpone

 不条理コメディ。アキレスと亀話。

剥がれた事態の成れの果て

 前述同様に一人称複数を用いた作品。個人的には掌編ながらこの一人称複数という人称を自作の中ではもっとも効果的に使えた作品と自負しており、「我々」の意識のありようがかなり戦略的に書くことができたと思う。

煙の代償

 偏見なのだが、ライブイベントだとこういう方が受けるだろうと思いつつ、「煙」をあられもない場所からもくもくと上らせるというギャグ。

左腕の夢

 収録作品中、もっとも古い作品である。タイトルがまず好みで、浮遊感をモチーフにした。腕の感覚、特に利き腕の感覚というものは不思議だなあ、と。

バベルの遺書

 最後の一文のために書いたといっても過言ではない。イベント用に書いたものだけど、そのイベントに一回も行っていないんだよなあ、と思いつつ、これはある種の信仰告白なのかもしれない、と今では思う。

三年という月日の思い出

「青い夏」という言葉は、『機械』の収録作品の「漂流物」に繋がっている。単なる感傷的な思い出を描いた作品。

分身

 いわゆる歴史小説。厄除け大師についての作品。

機械的変容

 この作品のバージョンは三種類あり、一つは完全なファンタジーであり、残る二つは本作と本作の別筋となる。この残る二つの方のテーマというのは、タイトル通りの機械的な変容を描きたかったということであり、「事態」がどんどんと原初の状態から遠のいていく、そして別の意味づけが為されていくということをたぶん書きたかったのだと思う。もちろん『機械』に繋がっていく。