Outside

Something is better than nothing.

『ミッドサマー』(2019年)

ミッドサマー(字幕版) フローレンス・ピュー Amazon アリ・アスターの『ミッドサマー』を観る。 フローレンス・ピュー演じる大学生のダニーは、ある冬に双極性障害の妹が両親を道連れに、一酸化炭素中毒で心中してしまう。しかしながら恋人のジャック・レ…

あるいは、「自分で考える」こと

仕事で人と話していると、よく「自分(の頭)で考えないとね」といったようなことを言うケースに出くわす。言葉尻だけ捉えればまさにそうなのだが、しかしその内実は人によってかなりベクトルの異なることを言うケースが多く、それらに出くわすにつれて私は…

黎明のプリンシプル

「プリンシプルのない日本」という言葉を何となく耳にした覚えがあったまま、このプリンシプル(principle)という言葉の、一種耳慣れない具合に意味を曖昧に宙ぶらりんの状態にしておくと、金融庁でプリンシプルベースを謳う顧客本意の業務運営(Fiduciary …

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(2021年)

シン・エヴァンゲリオン劇場版 緒方恵美 Amazon 庵野秀明の『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』を観る。 大きく四つに分かれた構成と思われ、まずパリでの戦闘、その後第3村に移動して人間性を取り戻し、ヴンダーに移動して最後の決戦に向けた準備と決戦、マ…

『隔たる世界の2人』(2020年)

トレイボン・フリーとマーティン・デズモンド・ローの『隔たる世界の2人』を観る。 ジョーイ・バッドアス演じるカーターは、昨日懇ろな仲になり一夜を共にしたザリア・シモン演じるペリーの元を惜しみながらも飼い犬のために離れるのだが、アパートを出て、…

『ナイブズ・アウト』(2019年)

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密(字幕版) ダニエル・クレイグ Amazon ライアン・ジョンソンの『ナイブズ・アウト』を観る。 クリストファー・プラマー演じるハーラン・スロンビーは著名な作家で、85歳の誕生日を迎えようとしている。誕生パーティーを…

夏の感慨

東京五輪は終わりを告げたことになったが、新型コロナウイルスの惨禍は続き、台風もやってくるところで、我々はもはやこの国は生存に適した場所ではなかったのかもしれない、と思うのは、例えば人口の半分を占めるはずの女性は、たかだか幸せそうにしている…

開会式のこと

昨日、2021年7月23日(金)に東京五輪の開会式が行われた。この日は例年「スポーツの日」として10月の第2月曜日に設定されている祝日が、オリンピックの開会式に合わせ、海の日とともに移動した祝日で、変則的になる。ただしこれは昨年度も同様で、新型コロ…

『ア・ゴースト・ストーリー』(2017年)

A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー(字幕版) 発売日: 2019/12/03 メディア: Prime Video デヴィッド・ロウリーの『ア・ゴースト・ストーリー』を観る。 ケイシー・アフレック演じるCは、ルーニー・マーラ演じるMとともに夫婦として暮らしているのだが…

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017年)

マンチェスター・バイ・ザ・シー (字幕版) 発売日: 2017/08/18 メディア: Prime Video ケネス・ロナーガンの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観る。 ケイシー・アフレック演じるリー・チャンドラーはボストンで便利屋としてマンションの管理を請け負っ…

怒りの矛先

何度も書いてしまっているので言わば芸がないのだが、何度でも語るべき金井美恵子の『〈3.11〉はどう語られたか: 目白雑録 小さいもの、大きいこと (914) (平凡社ライブラリー か 38-2)』の末尾近くになって、ある作家の記述が引用されていた記憶があるのだ…

『1917 命をかけた伝令』(2019年)

1917 命をかけた伝令 (字幕版) 発売日: 2020/05/20 メディア: Prime Video サム・メンデスの『1917』を観る。 ジョージ・マッケイ演じるウィリアム・スコフィールドとディーン=チャールズ・チャップマン演じるトム・ブレイクは第一次大戦の只中にいた。西部…

要すれば言葉、というより他はなく

金井美恵子の稀有な批評であり言葉そのものの記憶でもある『〈3.11〉はどう語られたか: 目白雑録 小さいもの、大きいこと (914) (平凡社ライブラリー か 38-2)」』を読んでいると、こんな小さなことでさえもここまで言葉を語ることができるのだという、金井…

『ジョーカー』(2019年)

ジョーカー(字幕版) 発売日: 2019/12/06 メディア: Prime Video トッド・フィリップスの『ジョーカー』を観る。 ゴッサムシティで暮らすホアキン・フェニックス演じるアーサーは、精神的な病に侵されつつも、フランセス・コンロイ演じる母親ペニーと暮らして…

引越しのこと

二度目の緊急事態宣言が発出されたのが一月八日だったと思うが、それが発表されたのが前日で、我が家は微妙な時期に引越しを行ってしまうことについて非常に不安な心持ちでいた。そもそもいつなのか、あるいは発出されたとして引越しができるのか、と。 結論…

『パラサイト』(2019年)

パラサイト 半地下の家族(字幕版) 発売日: 2020/05/29 メディア: Prime Video ポン・ジュノの『パラサイト』を観る。 父母息子娘の四人家族は全員失業中で、近隣家庭のWi-Fiを又借りし、ピザ箱を組み立てるような内職をして糊口を凌いでいたのだが、ある日、…

数々の毀損と後退

2020年という年がもともと喜ばしいものとしてあったのかどうかということを考えるとそうでもないような気がしないでもない年の瀬に、今年の振り返りを行おうということはどこか暗く、そして冷たい予感を覚えるのだが、しかしそれは致し方ない類のものである…

遠い感覚

少し前に鎌倉に行って、その海岸線を歩いた。どうしてだかふと海に誘われて、というような感覚があって、どこにも行く予定がない連休に私たちは海岸に立った。秋口で、まだ肌寒さはなかったけれども、海水浴のシーズンではなかったから人は少なく、それに世…

礼と規範

これは特に学術的な根拠がある話ではないのだが、孔子の「礼」について考えているとき、なぜこの「礼」という概念が春秋戦国時代という動乱の時期にあって生まれたのか、ということを孔子の専門家でもないのに考えていたことがあり、別に孔子について詳しい…

多寡の誘起

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、いわゆる第三波が猛威を奮っている中、毎日「過去最多」ないしそれに類似した言葉が飛び交うようになって久しい。私はというと、仕事上エッセンシャルなワークでもないけれども、単に設備上の不足という物質的な理由に…

見放された音楽

父はよくギターを弾いた。母の顰蹙を買いながら、母と息子は父の奏でるギターと下手くそな歌を聞いていた。しかしながら、こう言っては何だが、楽しそうに歌う父の姿は印象的で、彼のようにギターを弾いて歌を歌えば自分はなんて幸せなんだろうとも思った。 …

月を指して指を認む

読書猿の『独学大全』(ダイヤモンド社)をようやく読み終わることができたのだが、その中に長年、きちんと正しい言葉を知らないまま使っていた言葉があってそれがタイトルにもある「月を指して指を認む」というものなのだが、説明を前掲書から引用すると、 …

『グレイハウンド』(2020年)

アーロン・シュナイダーの『グレイハウンド』を観る。Apple TV+の映画。 トム・ハンクス演じるアーネスト・クラウスは艦長としての初めての任務で、第二次世界大戦下における大西洋の戦いの最中、護送船団を率いてリバプールに向かう。クラウスは、エリザベ…

愚かさの共有

星野源の「くだらないの中に」という曲に、 髪の毛の匂いを嗅ぎあって くさいなあってふざけあったりくだらないの中に愛が 人が笑うように生きる という歌詞があって、思い出すたびに少しクスっとするのだけれども、この歌詞に近似した経験は確かにあるわけ…

学ぶことの射程

少し前から読書猿の『独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』を、その名に相応しからぬ最初から最後まで読もうとする方法で読んでいるのだが、しかしそれでも面白い。まだ半分を少し過ぎたところであるのだが、血肉化できて…

『デトロイト』(2017年)

デトロイト(字幕版) 発売日: 2018/06/20 メディア: Prime Video キャスリン・ビグローの『デトロイト』を観る。 1967年、アメリカのデトロイトで、退役軍人の復員記念のパーティーを行っていたところ、デトロイト市警が違法酒場として摘発を行った。デトロイ…

『TENET』(2020年)

クリストファー・ノーランの『TENET』を観る。 冒頭、ウクライナのキエフ、オペラハウスでジョン・デヴィッド・ワシントン演じる工作員の男はテロ事件に対処するため、特殊部隊に混じって作戦を実施したが、途中、敵対組織に捕まり、自殺用のカプセルを飲み…

動画と音楽

新型コロナウイルスに関連して、通常業務の激務っぷりに拍車がかかったこと、そして今年度からやや体制面が変わって(というか端的に言えば、「ボス」が変わって)、七面倒臭い仕事ばかりやらされているような気がしていたのだが、ここに来て動画を軸に何か…

『来る』(2018年)

来るメディア: Prime Video 中島哲也の『来る』を観る。 妻夫木聡演じる田原秀樹は、黒木華演じる香奈と出会い、結婚するに至るのだが、彼の幼少期の記憶で「嘘つき」と囁かれることが耳に残って仕方がない。その空虚で意味のない結婚式の後、かねてからの希…

『惑星ソラリス』(1972年)

惑星ソラリス Blu-ray 新装版発売日: 2016/06/24メディア: Blu-ray タルコフスキーの『惑星ソラリス』を観る。 心理学者のクリスは地球上で惑星ソラリスの探査計画が謎めいた原因で失敗しかかっていることを受け、観測ステーションに派遣されることになるの…