Outside

Something is better than nothing.

生活

ふくろうカフェの思い出

鳥 ヒッチコックに『鳥』という映画がある。いわゆる動物パニック物の映画なのだが、あまり数多く観ていないヒッチコックの映画の中で、『鳥』は印象に残ったものに入る。 鳥の持つ表情のなさが恐ろしく、何を考えているのか分からないためホラーとして描か…

若さにとって走るとは

年老いたという感覚が分かろうはずもない、未だ若いと言われる年齢であるものの、しかしかといって掛け値なしに若いというわけではなく、若さというものが少しずつ手のひらの上からこぼれ落ちていることを感じる年齢になった。しかし、それがいったいどうい…

名付けられた親指

進行性指掌角皮症、という。しんこうせいししょうかくひしょう、と読む。 まったく聞いたことがない上に、私は単なる手荒れの延長で考えていた親指の死から、皮膚科で名付けられた親指の名称は、かくのごときものだった。処方された尿素が多めのクリームを塗…

徳用ソーセージの不味さ

あまり味というものにこだわりを持たないということは、食べ物の好みの問題ではなく、私には味が分からないのではないかという不安や舌の味わうことに対する謙遜から来るものではあるのだけれども――あるのだけれども、かといってまったく美味いことや不味い…

矯正の絶えざる限界

十八歳以来となるということに少し驚きを感じながらも、私の今の年齢が二十七歳だから九年という年月が流れたことになるのだろうか、私はひさしぶりにコンタクトレンズを装着していた。眼鏡をずっと装着していたため、無意識に眼鏡を直すための動作を行って…

雀と鼠

本当かどうかは知らないのだが、英語圏で雀のことを「Flying rats」と言うという話を誰かから聞いて以来、私は雀の姿を見かけるたびに、「あ、Flying rat[空飛ぶ鼠]だ」と思うようになってしまうどころか言ってしまうようになり、隣に歩く妻に苦笑されている…

過ぎて後

今年はあまりクリスマスという気分を感じられなかったのは、私が単に出不精で街の様子をあまり見ていなかったからなのか、とも感じられるわけだが、どことなく通勤の合間や同僚との会話に見受けられるようなクリスマス感とでも言うべき雰囲気を、今年はあま…

何もすることのない休日、の連続

今年の中頃に入って妻と休日が合わなくなってしまったから、休日は独身時代のようにひとりきりで過ごすことが増えた。私の休みは暦通りであるから、土日のほとんどをひとりで、特に何もすることなく過ごしている。そもそも出不精であるから、あまり外には出…

冷たさの中でゆっくり歩く

余裕がない時期に来てしまった。それは財布の事情であるかもしれないし、師走という一年の忙しさの頂点となる時期だからなのかもしれない。 私はどこにも行くことができず、ただ家と職場を往復していた。精神的な余裕がない、と実感していた。ふと顔を上げて…

不確かな実体の手触り

タイにて、パタヤビーチからスピードボートで15分程度のところにあるラン島にて、我が家族は宿泊した、その次の日のことである。つまり私は浜辺にいて、船を待っていた。朝からシーウォークをするため、現地ガイドに頼んでいたのである。 眩しさが私の視界を…

二度目のタイとオレンジの思い出

先週の土曜日からタイに行っていて、両親のところに滞在していた。シラチャは日本人が多く住む町で、J-Parkという日本人用のショッピングモールのようなものまである。そこではイオン系列のスーパーがあったり、吉野家のパクりみたいな店名の牛丼屋があった…

繋がりの慣性あるいは陥穽

思いのほか生活を共にする、ということは絆を強めるものである。 人は堕落する、ということを坂口安吾は「堕落論」で述べていた。これをなぜだか先月二度読んでしまったのには、紆余曲折を経て、今に至る関連があるからだろうか、いや分からない、とにかく偉…

耳慣れた日々

囁きが聞こえてくるのであった。ひそひそと、あることないことが。いいことも悪いこともある。いや、ほとんどが悪いことかもしれない。それでも、言葉は絶えず耳に飛び込んでくる。自分自身の中で発する声でさえも。 実家にいた頃、私は両親が寝静まった深夜…

二つの冷蔵庫との一日

家電について書くことがべつだんこのブログ全体の趣旨ではないにせよ、掃除機に始まり冷蔵庫へ至っていることは事実で、これは偶然ではあるのだが致し方ない。しかし、私にとって家電製品というものは生活を構成し、さらにはその質を向上させる、ささやかな…

落ちる油

「マジか」 と私は呟いた。先週のことである。今まで労力をかけていたはずのものが、嘘のようにすっきりと終えることができている。私は自分でも驚くくらい、この変化に対して衝撃を受けていた。もしかすると、私が知らないだけで、世の中の多くの人も同様の…

流れていく日常

いつの間にか二月となっている。 今日は両国国技館で日本大相撲トーナメントに行ってきた。初めての相撲観戦である。お相撲さんのいかにもな大きさを堪能しつつ、とりわけ幕内力士の立合いは、非常に迫力があった。これはこれで思うところはあったのだが、そ…

新しい掃除機

前回に引き続き掃除機について、ということになるのだが、私はそれからしばらくの間、掃除機を使わなかった。例の大学生のときに買った掃除機を思って、ということではなく、単に使うタイミングがなかったのだった。 古くなった黄色い掃除機とは対照的に、新…

掃除機を新調する

年末年始はなぜだか昔にやった『真・三國無双6』(2011年)シリーズを延々とやっているという、意味不明なくらいに後退しまくった日を過ごしたわけであるのだが、私も昨年に結婚して、妻が東京出身の人間であるために親戚付き合いなるものが身近に迫ってしま…

タイのマンゴー

今年の四月から、私の両親がタイに行っている。いや、これは人に話すとまず「なんで?」という疑問符が浮かぶ代物であり、私も同様に思うのだ。タイだよ、タイ。なして?と。私とてこの状況に甘んじていたわけではない。正直なところ、両親がタイに行くなど…

歯の遍歴

歯医者にかかって、おおよそ三ヶ月ばかりになる。八月の新婚旅行の途中で歯痛に悩まされるようになり、帰国してすぐに歯医者に行こうと思っていたが、それが延びて、手元の診察券を見る限り九月の半ばに罹ったことになる。激痛であった。痛い痛いと呻き続け…