Outside

Something is better than nothing.

個人

永遠の若い彼らについて

永遠に若いということはありえないのだけれども、きちんと年齢を感じる機会が少ないと、どうも自分が年を取ったという感興が湧かないことがままある。とはいえ、折に触れて年齢の意識させられる瞬間は多々ある。体力の低下や思考の鈍り、逆に経済的な余裕や…

鳩の死

眠たい目をこすりながら、職場へと向かう朝まだき、駅に向かう狭い通路を通り過ぎているときに、異臭に気づいた。おや、と感じたのを覚えている。 その通りは昨夜の酔客どもの中身がぶちまけられている実に汚い通りでもあり、しかしそれはそれである種の歓楽…

迷宮のクオーターライフ・クライシス

思い返せば2016年は呪われていたとしか思えない。2015年の12月くらいから精神的に苦しくなってきたというところはあるのだが、それが改善されないまま2016年に突入してしまった。当時の私は仕事上の環境が大きく変わったことで、もはやどうしようもならない…

家々の変遷

何十年か生きていくと、住んでいる場所がいつの間にか過去のものとなっていることはよくあることで、一箇所に定住するということはけっこう難しい。それだけの資本があるのであれば、半ば強制的にその資本の磁場に囚われてしまうことになり、それはもちろん…

完成の水準

金井美恵子のエッセイ・コレクションが2014年くらいから全四巻で刊行されていて、彼女の「目白雑録」シリーズが好きだったので購入してみて、ちまちまと読み進めている。けれどもまだ第一巻の『夜になっても遊びつづけろ (金井美恵子エッセイ・コレクション[…

甘酸っぱさとその泥濘 ―『ハチミツとクローバー』にまつわる思い出について―

ハチミツとクローバー 1 作者: 羽海野チカ 出版社/メーカー: 白泉社 発売日: 2016/08/10 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (2件) を見る 先日、久々に羽海野チカの『ハチミツとクローバー』(以下、ハチクロ)を読み返していた。NHKで『3月のライオ…

童貞に囚われること

出会わなかったこと 出会わなかった以上、致し方ないといえばそうなのだが、先日に見かけた雨宮まみの死というものは、誰かが死んだとしか反応することができず、当人を何らかの形で知らなかった以上はそれで終わるはずだったのだが、さまざまなところで反応…

煙の生

法事のために帰省したということはつまりそれは宗教行為を行うということに他ならない。私の母方の親戚連中は基本的には宗教心が強く、自分でお経を上げたりできる人も多いし、お寺に修行したりした伯父もいるし、墓参りもけっこう頻繁に行っていたようにも…

親戚付き合いの位置

法事ということだったので、法事を終えたあとに宴会となった。以前はそういった「親戚付き合い」が煩わしいとは思っていたものの、一年に一度あるかないかの付き合いであるのだから、そこまでの煩わしさも感じられないようになった。 もともと私は父方との親…

地元で見たいくつかの顔の印象

地元に帰ると、ふだんは東京で生活しているためなのか、いろいろと発見が多い。 私が今回、もっとも印象に残ったのはそこで生活する人々の顔で、これは私の主観かもしれないのだが、彼らはおおむね大人びて見えた。 同年代か、それより下の世代の男性の表情…

根無し草にとって地元とは

先日まで地元に帰っていた。 ここ数年、両親が実家を人に貸してタイに仕事に行っている関係で、以前まではお盆と正月には帰省していたが、実家が消滅してしまったので帰ることができなくなってしまっていたのだった。 今年は幸いにして友人の結婚式が二度あ…

蛇と蜘蛛の続き

joek.hateblo.jp (あまりにも疲れ果てていたときに蛇について書いたのだが、タイトルが「蛇と蜘蛛」という割に一切蜘蛛について触れていないのは自分でもいかがなものかと思いつつ……承前) 蛇を考えると、つらつらと類推するのは蜘蛛のことで、蜘蛛は例えば…

蛇と蜘蛛

子供の頃に聞いたことがあることわざだったり迷信のようなものは、大人になっても影を落とすように記憶にこびりついているもので、例えばそれは夜中に口笛を吹くと蛇が出るといったものであったりするのだけれども、子供の頃の私は小賢しくも当然に風呂の中…

言語化の壁

あらゆるものを言語化することはまず不可能だとは思うのだけれども、他者への伝達を目的とする言語使用において、言語化不可能の対象は存在しないものとして扱われる、ということになるのだろうか。 言語化できない/したくないものというものの奥に、何か非…

皮膚の反発について

これは私のオリジナルの考えではなく、大学の講義の中でか、本の中で読んだ記憶があるのだが、存在における特徴というものは――皮膚の張りを思い出せば、とは思うのだが――皮膚の緊張している状態が彼我を分けるしるしとなる。皮膚によって隔てられた外部と内…

負けて後

よくよく考えれば人生の中でかなりの回数、勝ち負けを意識してきたことになり、それは些細なことから、人生を左右するようなことまでたくさんあるのだが、その勝ち負けというものはいったい何なのだろうと思わなくもない。大した相違はないものの、その場の…

さえずる鳥

全部であったり、絶対であったり、結論であったり、結局であったり……つまりそういう総括的な物言いが好きな人間がいる。完璧主義者ではないにしても、クオリティに対する徹底性とでも言おうか、あらゆる曖昧さを排除した正確な考え。しかし、それは建前の世…

一進一退の日々

この4月に人生初の異動を経験することとなった。 人生初の異動だったが、直前までの予測は異動しない、あるいは異動しても仕事内容についてはさほど変わらずというものだったので、気になることはただ人間関係の不安だけだった。しかしいざ内命が出ると、場…

眠りの記憶

いくつもの眠りの記憶の中で印象的なのは幼少期のことだ。 アリス症候群の範疇に入るのかもしれないのだが、私は熱を出して眠っているときに部屋の中に取り残されたと感じ、同時に部屋の中の自分の位相が急に掴めなくなった。部屋と私との関連がいったん切断…

親指の死

日々、再生と破壊とを繰り返す身体ではあるけれど、子供の時分には成長という名の下に急速にその輪郭を大きくしていき、総体性とでもいうべき統一を身体は目指していくこととなる。だが、大人となった今では、身体はいずれ朽ち果てる死すべきものであり、そ…

換気

ずっと同じところにいると、息苦しくなる。私たちの呼吸することに変わりはない。しかし、密閉された容器の中の、空気の絶対量は変わらない。 だからそこで呼吸し続けると、いつしか空気を失うことになる。呼吸のたびに、吸い込む空気の量が減っていき、やが…

否定すること

死ね、とよく言う教授が、大学に通っているときにいた。私はその教授の講義が好きで、最初に受けたときは度肝を抜かれる思いをしたが、次第にその教授の考えに惹かれて、ふたたび講義を取った。 最初に挙げた「死ね」を部分的に見れば、やや乱暴に映るかもし…

具体性から抽象性へ

仕事を始めたときに研修担当からこのようなことを言われた。「私はどこかで自分の仕事が世界平和に繋がっていると考えながら、仕事をしている」 室内は失笑めいた静寂で満ちた。その空気に同調して、私もその場では一笑に付した。しかし、研修が終わってから…

履歴と痕跡

履歴が私自身を作っていくような気がしている。意図しようが、意図しまいが、日常を過ごしていくうちに自然とできる轍が、自身の過去を形作り、同時にその先にある現在をも規定してしまう。 膨大なテクストに囲まれて、あらゆる文字が私を表していく感覚が、…