Outside

Something is better than nothing.

『サブウェイ123 激突』(2009年)

 トニー・スコットの『サブウェイ123 激突』を観る。

 デンゼル・ワシントン演じるガーバーは地下鉄の運行司令室で働いているのだが、突如として電車が停まってしまう。不審に思って無線連絡をすると、ジョン・トラボルタ演じるライダーがハイジャックを宣言する。

 地味だけど佳作。

 ライダーの目的はニューヨークの地下鉄をハイジャックすることで、金相場を動揺させて、利益を得るという、実に私利私欲によるものであり、ハイジャック犯たちの行動に一切の精神性は関与しない。要するにそこにあるのは明確の資本主義における金融市場の倫理に則って、相場の変動に伴い利益を得るということだけで、そのもっとも効果的な方法(と彼らが考えついたの)が「テロ」(ハイジャック)だった、ということになる。

 だから交渉役は本質的にはガーバーである必要はない。ただ何となく気に入ったという理由と、おそらくジョン・タトゥーロ演じるカモネッティ警部補が気に入らない(警察側にアドバンテージを握られたくない)という理由で、ガーバーが選定される。ガーバーの行動をよく見ると、彼はただただ状況に巻き込まれていくだけであり、悲しいことに賄賂の疑惑でさえ、彼が選択したものではない。そしてその賄賂の使い先ですら、自分の私利私欲というよりは、実にささやかに教育資金として使ったと述べられるだけで、ここで描かれるデンゼル・ワシントン演じるガーバーは圧倒的に受動的な存在なのである。唯一能動的に行動したかのように思えるライダーの射殺についてすら、状況に対して仕方なく発射されている。そして彼がエンディングで購入している牛乳にしたって、結局は妻に言われたから、である。しかも、テロが起こる前は停職が言い渡される直前だった、という事情も含めれば、かなり悲惨な状況ではある。

 ライダー自身も元は投資会社の社長で、莫大な損失を出したために失職した経緯が語られ、実に権力欲を筆頭に欲にまみれた市長への復讐として、今回のテロを計画したといった描写もある。もちろん肯定するわけではないが、彼もガーバーとの会話の中で何度も使い捨てにされることなどへの怒りを表明していることから、このテロ計画自体も抑圧状況から生じたものだと考えられなくもない。

 二者択一の質問で人の命が扱われ、資金の到着が遅れたとき、ガーバーは市職員と警察の、双方食い違う指示に戸惑いながら、同時にライダーのカウントダウンを聞かざるをえない。そして、その完全なる受動的な立場に置かれている彼自身が選択をして、結局人質が殺される。

 ガーバーがライダーを殺すとき、トニー・スコット的な状況ではあるのだが、彼らは橋にいる。そして二人とも橋の真ん中で、決断を迫られる。渡りきることができず、途中で引き返すこともできず、向こうから警官数人が銃を持ってやってきていて、ライダーに唆されながら、ガーバーは決断を迫られる。けれどもこの状況はどう考えたところで受動的な状況と言わざるをえない。結果的に彼はライダーを殺すのだが、その後、市長に言われた言葉を思い出されたい。賄賂の疑惑はうまくやると言われたときの、彼の戸惑ったような表情。どこまで行っても、ガーバーは受動的な状況に置かれているように見える。