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Outside

Something is better than nothing.

おごる・おごられるという関係について

社会

Violence

きっかけ

 非常に個人的な経験談について記していきたいのだが、ひとまずきっかけとなった物事について触れておく。

www.buzzfeed.com

 この記事から、経緯についての要点をまとめると、下記の通りになる。

  1. 2011年8月に福島県から横浜市に小学校2年生の男子児童が転校する
  2. 転校直後から名前に「菌」をつけられるなどの嫌がらせを受け、不登校になる
  3. 2014年、小学5年生になったときには「プロレスごっこ」と称し、数人の児童から暴行を受ける
  4. また、横浜駅やみなとみらい周辺のゲームセンターで遊興費・食事代・交通費といったものを負担させられた(おごらされた)
  5. 児童の話によると計10回ほどで、1回につき5~10万円、総額150万円にのぼる

 東日本大震災に端を発する原発の問題で自主避難してきたにもかかわらず、男子児童がいじめを受けるということになって、さらには約150万円もの大金を使わされ、なおかつ公的には「いじめ」とは認定されないかもしれない、という痛ましい出来事である。

 私が個人的に引っかかったのはこの記事の中で問題になる「おごり」という部分で、このおごりとおごらされるという関係性というものに、思い出すことなどがあった。

おごり

 中学生のときに、塾に行く前後で駄菓子屋やコンビニにたむろすることが流行っていた。塾の前には駄菓子屋で、中学生の、正直言えば柄の良くない男たちが訪れる小学生を威圧しながらたむろしている。また、塾の終わりにはコンビニの駐車場の前で延々と駄弁って座り込んでおり、大人たちの「何しているんだろう」という視線にガンを飛ばしていた。

 特に何か暴力沙汰が起きたわけでもなかった。片田舎で、まだ少なくとも勉強しようという意欲がある連中(あるいは両親の教育方針が多少は行き届いていた連中)がそこには集っていたので、ムクムクと育ちつつある身体とその暴力性を持ち余しながら、「学校」という私的空間を離れた公的空間の中で、多少なりとも社会性を維持できていたのだろうと思う。

 ただ、その中でひとり、よくおごる奴がいた。

 彼のことは、高校からは一切関係がなくなってしまったので、その後については知らない。ただ中学時代の彼は、学校のヒエラルキーの中で上位にいる連中に「おごる」奴だった。彼は「○○キモ」(○○には名前の一部が入る)とあだ名され、上位の連中からは蔑まれつつも利用されている奴だった。

 彼がどうしておごるようになったのか、正確なところは記憶していないし、おそらく見ていない。伝聞で聞いたかもしれない内容は、親が金持ちだとか、多額のお年玉をもらっているだか、そういった理由からだったのかもしれない。

限界

 とにかく彼はよくおごっていた。なぜだか気前がよく、私も一度くらいはおごってもらった記憶がある。当時の私は、ヒエラルキーを縦断するような存在で、当時の設定でいえば彼とは対等くらいの存在だったのかもしれない。

 ただ、中学生の経済力などたかが知れている。だんだんと彼の経済力は落ち始めた。塾は毎週ある。そのたびに駄菓子屋やコンビニでお菓子をおごらされていてはたまったものじゃない。

 だから反抗していたことがある。私はそのときの様子をコンビニで見たが、「こんなにおごれねえよ!」と彼はキレていた。けれども、他の腕力の強い連中にヘッドロックを決められて、「うっせーよ」と言われ、「あとちょっとだけ、な?」と猫なで声で言われて、結局おごっていた。

 その後、彼はへらへらと笑っていた。

 さすがにそのときは私はおごられなかったが、上位の連中には多少の金を出していた。

安全圏

 私の通っていた中学校は、少なくとも私にとってはあまり良い思い出のない場所である。暴力と裏切りが渦巻く厳しい世界で、先ほど私が学校を私的空間だと述べたが、実際にそれは事実で、有力者たちの私的空間なのだった。

 だから権力を持つ者が好き勝手できる空間であった。だから権力者の気に入らないことがあると、暴力が振るわれた。肩パンとか、蹴られたりとか、あるいは罵倒されたりだとか、大人になって考えるとどう考えても暴行でしかない。ただ子供めかした言いつくろいが、その私的空間では有効で、いじめも遊びに昇華され、実に権力者にとってはやりやすい場所だっただろうと思う。

 おごる彼は、おそらく無意識ではあったのだろうが、彼らに媚を売ることで、安全圏を確保しようとしていたのだと思う。彼自身の「価値」を、経済力という手段によって認めさせようとしていた。彼はよく蹴られたり、弄られたりしていたが、ある程度のポジションだけは確保できていた。

はけ口

 そして、彼のストレスのはけ口は、より低位の、下層の者へと向けられていた。

 そうすることで、彼は自分の地位を確認したかったのだろうと思う。私もよく挑発されていた。当時の私も愚かだったので、愚かなことをたくさんしていたのだが、それでも彼のやることに対しては違和感を覚えていたように思う。

 彼は自分の地位を金で買った。そうしなければ暴力と裏切りの渦巻く私的空間から、自分の安全を「買う」ことができなかったからだろう。

 そうすることで、彼は「仲間」に入ることを許され、トリクルダウンよろしくのおこぼれをもらうことができた。それは下層の者をいたぶる権利であったり、権力者の気まぐれから逃れやすい権利だったりするものだ。どこの世界にもよくいる奴である。

 かくいう私は、あまり彼のことを悪く言うことはできないのではないとも思う。同じ穴の狢、という言葉があるように、私も多かれ少なかれ、似たようなことをしていたのだろうと思うし、当時の親友も裏切りを求められて失った。

終わりに

 150万円という大金が、横浜市の彼は拠出することになったのだが、そのことで得られたものは私的空間における一時的な安全圏だったのだろうと思う。彼らに暴力を振るわれないためのチケットを、1回5~10万円ほどの言い値で購入していた、ということになる。自分の安全を守るために、彼は150万円というお金を費やした。

 私の同級生は、今でもあの連中と連んでいるのかもしれないし、関係性も中学生時代のものをそっくりそのまま反復したものではないのだろうとは思うのだが、結局のところ、おごることによって彼らに売り渡した、本当のものは何だったのだろうか、とも思うのである。

 風の噂で彼は高校を中退したと聞いた。

 すでに中学卒業後、十数年ばかり経っている。今では子供を持っているかもしれない。事態が反復されないことを祈る所存である。