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毛利小五郎という男

名探偵コナンについて 

名探偵コナン』はHuluで視聴することができるのだが、そういったアクセスのしやすさから我が家ではながら観することの多い映像作品である。シーズン1からだらだらと観続けて、今やシーズン19にまで至ってしまった。

 映画版のものもすべて観て、映画版の方は何度かレビューで記載しているが、「アクションスターとしての江戸川コナン」という風に特に最近作で割り切って描かれているところが好みである。邦画において、大予算が必要なアクションを描くには、アニメの上ででしか実現できず、またある程度の興行収入が安定的に確保できる『名探偵コナン』というコンテンツ上で、それは実現されたのだった。

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 もちろん大好きなアニメであり、特に貶したいわけではないのだが、アニメ中に描かれている「毛利小五郎」というキャラクターについていくつか書いていきたい。

毛利小五郎について

 江戸川コナンの居候先が毛利探偵事務所で、そこで探偵をやっているのが毛利小五郎である。彼は工藤新一の幼なじみの蘭の父親でもあり、元刑事。ただ推理は毎度のごとく外してしまうため、コナンが居候するまではパッとしない探偵だった。しかし、コナンによって名探偵が冠せられることになる。コナンが阿笠博士に開発してもらった時計型麻酔銃と蝶ネクタイ型変声機によって、小五郎は眠らされ、推理を披露するようになり、「眠りの小五郎」という異名を取るようになる。

 基本的にはコナンが真相に至るまでの前座として、小五郎は推理することになるのだが、今回はその推理力というよりも、父親として、あるいは男性としての小五郎について気になるのだった。

小五郎のキャラクターについて

 小五郎のキャラクターは「酒好き」「煙草を吸う」「ギャンブル好き」「アイドル好き」というもので、妻の妃英理(ちなみに弁護士)とは別居中で、娘の蘭と同居している状態になる。

 家事はどうかというと、アニメ中の描写を見る限りは家事労働はいっさいしていないようで、高校生(二年生)の蘭がそのほとんどを行っているように見受けられる。この点については主人公である江戸川コナンも同様で、蘭が不在時は二人して外食を選択する様子がよく描かれる。コナンは小学一年生という設定ではあるものの。

 小五郎は頻繁に酔いつぶれている描写があり、夜中に飲酒をするならばまだしも、昼間から酔いつぶれている印象がある。小学生の居候や高校生の娘の前でも、そういう様子を隠そうともしないので、アルコール中毒である可能性が高い。

「殴る男」としての小五郎

 いちばん気になるのはコナンへの鉄拳制裁で、コナンが事件に首を突っ込み、現場を「踏み荒らす」ときも、げんこつでコナンを殴っていた。もちろんそれはコナンが麻酔銃で小五郎を眠らせるバーターとしての表現なのかもしれないのだが、けれども対外的に見た場合、「大人が子どもに暴力を振るっている」という描写に捉えられかねない。警察関係者(目暮警部や高木刑事、佐藤刑事など)もそれを止めるといった描写はなく、せいぜい注意するくらいだったように記憶している。

 だが、それはいつの間にか、なくなった。声優が神谷明だったときには頻発していた鉄拳が、小山力也に変わってからはあまり見受けられなくなった。具体的に何話から、という記憶は残念ながらない。「あれ、最近おっちゃんの鉄拳制裁を見ないな」とある日気づいた。

 もしかすると見落としがあるのかもしれないのだが、けれども最近作についてはそういった描写はなりを潜め、せいぜいコナンを現場からつまみ出すくらいの描写に留まっているように思う。

混乱とブレ

 このキャラクターのブレは、時代的な側面もあるのかもしれない。

 しかしアルコール中毒的な描写や、ジェンダー的な部分において、『名探偵コナン』は完全にクリーンな作品(もちろんそもそも子供向けな作りの中で、殺人事件がメインに据えられているというところはどうか、という話もあるとは思うのだけれども)というわけではないのだが、けれどもコナンへの小五郎による暴力だけがそこから抜け落ちている、ということが不思議でならない。

 これを夫婦で観ている私たちも、『サウスパーク』でスタンの両親が「殺人ポルノ」とたしか呼ばれている、殺人事件にまつわるフィクションやドキュメンタリーの視聴経験に近しいものを追体験していることになるのだが。

 私はミステリーに詳しい立場ではないのであくまで想像なのだが、往々にして「名探偵」と呼ばれる人々は社会性からはみ出ている部分が多いという印象があるのだが、毛利小五郎という男についても、江戸川コナンの手を借りているとはいえ、この範疇に入る、ということになるのかもしれない。