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スマートガンのコンセプト

Gun Club

会話

 以下はPS3のゲーム『MGS4』の伊藤計劃によるノベライズからの引用である。場面はスネークとオタコンの会話だ(最初の話者がオタコン)。

「スネーク、PMCの兵士が使っているのはID銃だ」
「ID銃?」
「ID銃は兵士体内のナノマシンIDを認識してロックを解除する。システムのナノマシンを保持していない者、保持していても使用権限がない者は、ID銃の認証をパスできない。そのままでは引き金を引くことができないんだ」
「じゃあ、PMCの銃を奪っても使用できないというわけか」
「そういうことになる。スネークもシステムには登録されていないからね。ついでに言っておくと、武器や兵器だけじゃない。システムには車輌、軍事施設などすべてに対してこのID管理でセキュリティを掛けているんだ――PMCも正規軍も、ID無しでは戦えない」
「兵士を個別認証する、微細[ナノ]レベルの認識票[ドッグタグ]というわけだ」
伊藤計劃メタルギアソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』、角川文庫、45頁、[]はフリガナ、全角英字を半角英字に変更している)

  ここで登場するのは「ID銃」という技術だ。

 これは使用者が正当に認識されないと撃つことのできないロックがかけられており、それ以外にもこのゲームの設定ではナノマシンによる制御をさまざまな場面で受けることになる。

 銃規制と「自己防衛」

 だからこそ、銃を撃つ(銃を持つ)自由という考え方からすれば、この制御は「自己防衛」を制限するものとして受け取られることになる。定期的といってもいいほどの頻度になってしまった銃乱射に揺れる銃社会のアメリカにおいて、銃規制がなかなか進まないのも、この払拭しがたい「自己防衛」の思想があるからだ。

 仮に「ID銃」が実用化され、ID登録されないことには銃を持っていたとしても撃つことができなくなるとする。そのときに管理と制御――この双方の制約が「自己防衛」に対して著しい悪影響を及ぼす。この「自己防衛」は、管理の元締めである国からの防衛も含んでいるからだ。

 そしてパラノイア的に肥大化した隣人への恐怖が、「自己防衛」の極端な発露となり、銃乱射などの銃を使った犯罪へと駆り立てることになる。

スマートガンのコンセプト

 先日「スマートガン」についてのニュースを見かけた。

blogos.com

 記事を要約すると、

  1. カイ・クラファーが立ち上げたバイオファイア社は、指紋認証技術を活用したスマートガンの開発を行っている。
  2. 全米ライフル協会からの反発(や圧力)、技術的に未発達だったこともあり、この分野の歴史はまだ浅い。
  3. 年間3万3,000人もの人々が銃が原因で死亡するが、そのうちの62%は自殺で、その多くが若者による自分のものではない銃による自殺だった。
  4. この事実から、従来の身元確認だけでは死亡者の減少は期待できず、最新技術を活用したスマートガンを開発することで、「安全な銃」を作り出そうとしている。

 ということだ。

安全な銃

 この「安全な銃」のコンセプトは一見すると奇妙だ。防衛のためとはいえ、侵入者を撃退することができる銃は、当然のことながら死の可能性を濃厚に秘めている。

 そもそも銃を使わなければいいのでは、という発想が広がらないところがアメリカ的なのだろうが、この「安全な銃」ことスマートガンは一種の必要悪のようにも思われる。つまり、撤廃することができない以上、その制約の中で可能な限り安全性を高めていこう、というものだ。

 本文中にあった「妻あるいは夫が銃を使う場合は?」という質問に対し、「センサーは最大10種類の指紋を登録できる」という言葉が、なんとなくおかしみを感じはしないだろうか。

 この場合、極論すれば、5人家族だとしても1人につき2つの指紋を登録できることになるので、一家全員が認証をクリアし、発砲することもできそうである。その中には、(購入者が父親として)「自分のものではない銃」で息子や娘がスマートガンを発砲する可能性が含まれている。

セキュリティとロック解除

 もちろんこのセキュリティの課題は、広げていけばきりがない。そもそも論で言えば、家の中で登録者を絞ればいいだけの話だ。けれども、もっとシステム的に解決するならば、例えばこの指紋登録に従来の認証を紐づけてしまい、18歳以上でないと指紋登録ができないなどの発展性は考えられる。

 このコンセプトはさまざまな可能性がある。

 誰でもスマートフォンを保持する時代となった今となっては、指紋を初めとした生体認証だけでなく、もっと緩やかな認証も考えられなくはない。

 AndroidiOSといったスマートフォンによる持っているだけでの認証も考えられるだろうし、Apple Watchなどのスマートウォッチを持っているだけで認証、ということもあるだろう。

 この「安全な銃」としてのスマートガンのコンセプトは、アメリカの銃社会の中で発展していけば、従来の銃規制に新たな道を示す可能性があるだろう。

 少なくとも銃乱射や銃による事件が絶えることのないアメリカにおいて、新たなアプローチとして有効なのではないか、と思うのだった。

 

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パラノイア的に肥大化した隣人への恐怖」――この「信じがたい憎悪」は「架空の隣人」に端を発するものである、といった旨の記事。

joek.hateblo.jp