Outside

Something is better than nothing.

歌に満ちた生活

子育てをしている中で思いのほか驚いたのは、子どもと過ごす時間の多くが歌に満ちていることだった。子ども向け番組で耳にした歌を口ずさむ。子どもが覚えた歌を口ずさむ。昔の歌を口ずさむ。うろ覚えの歌詞を適当にごまかして歌を口ずさむ。 そうでなくとも…

泰然と超然

ひたすらモチベーションが低下していく中で子育てというファクターだけが強化され、その喜びだけが生きるための糧になっているような気さえしてくるものなのだが、では今年、子育て以外に何をやったのか、あるいはやらなかったのか、ということを考えるにつ…

檄文と檄データ

あまり時間を作る機会に恵まれなかったこともあって、まとまった文章を書くことはなかったものの、仕事の中ではほとんど毎日、それなりの分量の文章を書く機会に恵まれて、それはいいことなのか悪いことなのか分からないけれども、とにかく「書く」というこ…

『君たちはどう生きるか』(2023年)

宮﨑駿の『君たちはどう生きるか』を観る。 牧眞人は戦時中、火災によって母親久子を失う。その後、父親正一は久子の妹夏子と再婚し、父子は夏子の住む地方に疎開することになる。父親は工場経営を行い、軍需産業に携わっている。眞人は母親を失ったショック…

彼女のオブシディアン

夕方だった。 緑道を歩いていると、不意に女の子に話しかけられ、どうしたものかと振り返ると、女の子がいた。側には男の子がひとり、そして遠くには彼女の父親とまたひとり男の子がいた。 彼女は弟を連れ、父親と散歩しているようだった。彼女からすると、…

『ヴィレッジ』(2023年)

藤井直人の『ヴィレッジ』を観る。 横浜流星演じる片山優は霞門村のゴミ処理場で働くかたわら、ヤクザの仕切る違法廃棄物の不法投棄に関与している。彼はかつて自分の父親がゴミ処理場の建設反対運動を行ったあげく、村八分に遭い、その首謀者を殺害の上、火…

王朝の歴史

歴史の指し示すものについて、あまり世界認識としてのズレはないのだろうと思っていたのだが、学問的にはどうやら異なっているようで、最近は余裕があるときの寝る前に東京大学の過去の講義動画を聞いているのだが、そのまま寝落ちしてしまうこともあるので…

『死刑にいたる病』(2022年)

白石和彌の『死刑にいたる病』を観る。 阿部サダヲ演じる榛村大和は町のパン屋を営むかたわら、十七歳から十八歳の黒髪の真面目そうな高校生という特定のターゲットを執拗に付け狙い、長期にわたって関係を築き、最後には凄惨な拷問を加えて殺害する、といっ…

出されることのない手紙に関する小説

カクヨムに以下の小説を投稿しました。 kakuyomu.jp カクヨムを初めて使ってみましたが、気に入った次第なので何作か投稿していきたいなと考えていたり、いなかったり。

それ自身を生きられたもの

引用にしようとメモしていた言葉たちを整理していると、保坂和志の「生きる歓び」の中のある一文が目に留まった。 「生きている歓び」とか「生きている苦しみ」という言い方があるけれど、「生きることが歓び」なのだ。世界にあるものを「善悪」という尺度で…

抽象性から抽象性へ

先日、千葉雅也の『現代思想入門 (講談社現代新書)』を読んでいたときに、以下の文章に出会った。 その後、レヴィナスはもうひとつの大著で、ひじょうに大胆なキーワードを出してきます。それは著作のタイトルなのですが、「存在するとは別の仕方で」という…

義とは?

ヴィヨンの妻(新潮文庫) 作者:太宰 治 新潮社 Amazon 高校生から大学生の頃だったと思うが、太宰治の新潮文庫から出ている文庫本を順番に読んでいたことがあり、『ヴィヨンの妻(新潮文庫)』まで辿り着いて、そこに収録されている「父」を読んだ。 冒頭は…

子のいる人生

2022年はロシアによる一方的なウクライナへの武力侵攻に想起される暴力のイメージが横たわっているように思われる。本邦においても、安倍元総理の銃撃、これに伴う旧統一教会の諸問題といった具合に。 さはさりながら、私にとって2022年という年はひたすらに…

『シン・ウルトラマン』(2022年)

シン・ウルトラマン 斎藤工 Amazon 樋口真嗣の『シン・ウルトラマン』を観る。 日本において突如として禍威獣(怪獣)が出現し、被害が多発することから防災庁という組織に禍威獣特設対策室を設置し、西島秀俊演じる田村を班長に、斎藤工演じる神永、有岡大…

そもそも新しいものではない——こどもの視展について

もうすでに終わった展示会について語るべきことはないのかもしれないのだが、なんとなく心に留めているものがあったので、先日行った伊藤忠商事のITOCHU SDGs STUDIO主催する「こども視点での体験を通して、こどもとの暮らしや社会の在り方について考える体…

葬送の繊細な感覚

エリザベス女王が亡くなったとき、私は英国のモナキストではないので、ブレイディみかこ経由で知ったジュリー・バーチルのある少数グループに生まれつくことは云々といった言葉を思い返していたのだったが、同時にNHKのニュースやネットニュースの写真などで…

後ろの曲がり角——あるいは「はてなしはてな?」の郷愁

www.youtube.com テレビ東京で平日の朝に放送されている『シナぷしゅ』は、特徴的なキャラクターが前面に出ているものの、その中にウタぷしゅというコーナーがあって、そちらが私としては好みであるのだけれども、そこに志人の「はてなしはてな?」という楽…

『コンジアム』(2018年)

チョン・ボムシクの『コンジアム』を観る。 コンジアム精神病院を舞台に、呪われた廃病院を人気YouTuberが取材する、といったテイストで撮影された映画。相当の機材を持ち込み、実況を行いつつライブ配信をするが、やらせをして盛り上げるつもりが、本物が紛…

『呪詛』(2022年)

ケヴィン・コーの『呪詛』を観る。Netflix映画。 リー・ルオナンはかつて恋人とその弟とともに、YouTubeのチャンネルの企画で恋人の祖父が住む集落に向かう。そこでは謎めいた宗教が信奉されており、地下道に何かがいる、ということになっている。「仏母」と…

一度に一つの生

フェラーリ (…)ところでボルヘス、こうやってあなたと話しているうちに、ストア主義とあなたとのもう一つの共通点に気づきました。たとえば、定められた仕方でこの生を生き、来世にはあまりこだわらないという考えです。 ボルヘス ええ、それを言ったのは…

『JUNK HEAD』(2021年)

JUNK HEAD(字幕版) 堀貴秀 Amazon 堀貴秀の『JUNK HEAD』を観る。 人類がほとんど不死になった代わりに、生殖機能を失い、新種のウイルスによって絶滅に危機に瀕した人類はかつて自らが創り出した人工生命体マリガンに希望を寄せることになる。そこでパー…

『リング』(1998年)

リング 松嶋菜々子 Amazon 中田秀夫の『リング』を観る。たぶん5回目くらいの視聴。 松嶋菜々子演じる浅川は、息子の大高力也演じる陽一と暮らしつつ、テレビ局のディレクターとしてさまざまな取材を行っているが、そこで呪いのビデオという存在を知り、取材…

『マリアンヌ』(2019年)

マリアンヌ(字幕版) ブラッド ピット Amazon ロバート・ゼメキスの『マリアンヌ』を観る。 第二次大戦下のフランス領はモロッコ、ブラッド・ピット演じる工作員マックス・ヴァタンは、マリオン・コティヤール演じるマリアンヌ・ボーセジュールと合流し、夫婦…

『新聞記者』(2019年)

新聞記者 シム・ウンギョン Amazon 藤井直人の『新聞記者』を観る。 シム・ウンギョン演じる吉岡エリカは東都新聞に務める新聞記者で、北村有起哉演じる陣野から大学新設計画に関する書類を受け取り、調査を命じられる。一方、内閣情報調査室に勤める松坂桃…

『ファーザー』(2020年)

ファーザー(字幕版) アンソニー・ホプキンス Amazon フローリアン・ゼレールの『ファーザー』を観る。 アンソニー・ホプキンス演じるアンソニーは、年老いた結果として認知症を患い、オリヴィア・コールマン演じる娘アンに心配されつつも、ヘルパーと折が合…

『ザ・コール』(2020年)

イ・チャンヒョンの『ザ・コール』を観る。Netflix映画。 パク・シネ演じるソヨンは母親の見舞いのために実家を訪れることになるが、何度か謎めいた電話がかかってくる。悪戯電話かと思い、最初は気にも留めていなかったソヨンだったが、この家にかつて住ん…

『ミッドナイト・スカイ』(2020年)

ジョージ・クルーニーの『ミッドナイト・スカイ』を観る。Netflix映画。 ジョージ・クルーニー演じるオーガスティン・ロフトハウスは北極で宇宙船に対して交信を試みている。彼は地球の居住環境が著しく悪化した結果、北極や短期間であれば地下でのみ生存で…

『チェリー』(2021年)

ルッソ兄弟の『チェリー』を観る。AppleTV+映画。 トム・ホランド演じる主人公は、冒頭、銀行強盗を行う。これにはそこに至る経緯があり、彼は時系列で自身の半生を語ることとする。彼はシアラ・ブラヴォ演じるエミリーと出会い恋に落ち、しかし彼女が自分の…

『メッセージ』(2016年)

メッセージ (字幕版) エイミー・アダムス Amazon ドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』を観る。 エイミー・アダムス演じる言語学者のルイーズ・バンクスは大学で授業を開始しようとしたところ、学生たちがまったく集中していないことから何事かと思っている…

『カンバセーション…盗聴…』(1974年)

カンバセーション…盗聴… ジーン・ハックマン Amazon フランシス・フォード・コッポラの『カンバセーション…盗聴…』を観る。 冒頭サンフランシスコのユニオンスクエアで、シンディ・ウィリアムズ演じるアンとフレデリック・フォレスト演じるマークがぐるぐる…